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2024年11月18日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 イーロン・マスク氏の特異性

米国の次期大統領にトランプ氏が選挙で選ばれたことで、大統領選で支持し、巨額の献金を行ったテスラのイーロン・マスク氏が連日話題になっている。

特に新設の「政府効率化省(DOGE:Department of Government Efficiency)」を率いることになり、多くの政府関係者は戦々恐々としているようだ。

そこで思い出すのが、マスク氏は以前に「アスペルガー症候群」であると告白したことがある。アスペルガー症候群とは、自閉症スペクトラム障害のうち、知的障害および言語障害をともなわない人々をいうようだ。

次のような特徴があるとのこと
・社会的コミュニケーションが困難
・対人関係が困難
・こだわりが強い
・感覚の偏り

特に、ある分野への強いこだわりを示すことが多く、世の中の視点と全く異なる視点を持つことが多いと聞く。確かに、マスク氏はこれまでの一般常識的な視点ではなく、別の視点から物事を見てきたように思われる。

歴史的にはトーマス・エジソンや二コラ・テスラも同様の資質を持っており、異端児と言われながらも、世の中にないものを生み出してきた。

しかし、政権の指導者は、どちらかと言えば、協調性を重視した方が多く、このように特異性を有する方がトップとなるのは珍しいのではないだろうか。

多くの軋轢を生むと思うが、その混沌とした中でどのようなことが生まれるのか、ある意味楽しみにしている。

2024年10月28日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

米国で新エネ車は意外にも堅調!

昨今のニュースでは、「EVシフト減速」の文字が躍ることが多い。例えば欧州にてVW工場閉鎖の話題、米国ではGMやFordによるピックアップトラックEVの投入見直し、トヨタによる2026年EV生産台数を150万台から100万台への見直しなどであろう。

一方では、最近公表された米国の2024年1~9月まの新エネルギー車(BEV+PHEV)新車販売台数は、約117万台、対前年比8.6%増、販売比率は10%に達したとのこと。

あれっと思われるかもしれないが、実態の販売はそれなりに健闘しているともいえる。米国の場合、テスラの販売台数は減速しているかもしれないが、逆にGMのBEV「ブレイザー」やフォード「Fシリーズ」など米国系メーカーなどが伸びているようだ。

まもなく米国大統領選挙を迎えるが、筆者はEVシフトに関してあまり影響を受けないのではないかと考える。

というのは、最も環境規制の厳しい米国カリフォルニア州のZEV規制は、2026年の35%~2035年には100%となるが、ZEV法は州法であり、以前にトランプ大統領の時代も手を出せなかった経緯があることから、ほぼこのまま実施されると思うからである。

このため、どのような大統領になろうとも、大手自動車メーカーはEVシフトの手を緩めるどころか、ますます強化していくように思えてならない。さて、EVシフトに関し、日本では選挙結果により何か変わるのであろうか。

2024年9月26日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

BYDを研究すべし!

BYDの躍進が止まらない。2023年、BYDはBEVとPHEV合計で302万台を販売し、2024年は販売目標360万台に対し、販売好調のため400万台に上方修正している。400万台と言えば、2023年の日産自動車344万台を超え、ホンダ410万台レベルとなる。

振り返ると、2024年2月、BYDは「ガソリン車よりも安い電気自動車(電比油低)」というスローガンを掲げ、新エネルギー車の低価格戦略を発表した。例えば、2024年モデルにてPHEVモデル「秦 PLUS DM-i栄耀エディション」は7万9800元(約165万円)から、BEVモデル「秦 PLUS EV」は10万9800元(約230万円)からという具合である。

これに端を発し、中国にて一気に値下げ競争が激化した。テスラ始め他EVメーカーも、BYDに対抗するには値下げせざるを得ない。その結果、新エネルギー車の販売は、一気に上向きかけている。直近の2024年8月では、新エネルギー車販売110万台、対前年比30%増、新車販売比率は45%にまで高まっている。

筆者は以前にBYDの深セン本社を複数回訪問したことがある。その中で、1度、王伝福董事長と意見交換する機会があった。その時の印象は、夏場であったためか、開襟シャツにて出てきており、偉ぶらず、温和で、我々の質問に対しても丁寧に答えていただき、中国の有名な経営者の一端を垣間見た気がした。

しかし、そこはBYDの創業者である。多くの中国の戦略を参考にしているのではないだろうか。ここからは筆者の推論であるが、「孫子兵法」に次のような名文がある。「勝兵は先ず勝ちて、しかる後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて、しかる後に勝ちを求む」という。つまり、事前に十分準備し、勝利する態勢を整えてから戦う者が勝利を収め、戦いを始めてから慌てて勝機をつかもうとする者は敗北に追いやられるという意味である。

おそらく、王伝福氏は、今回の「電比油低」という価格破壊の革命的戦略を実施するに当たり、相当な準備をしてきたのではないだろうか。その上で、製造原価をどこまで下げることができるのか、また販売台数をどこまで伸ばせば、企業としての収益は維持できるかを考え、その絶妙なバランスの上での戦略であると推察する。他自動車メーカーがBYDの値下げ攻勢に対して、準備もなく単に追随するのであれば、あっという間に収益が悪化し、経営不振に陥るであろう。

なお、直近の中国メディアによれば、BYDの総従業員数は90万人を超え、技術研究開発部門も11万人を上回っているとのこと。世界展開を見据えて、人員規模を拡大し、準備に取り掛かっているようにもみえる。

筆者は、テスラよりも現実的な成長軸としてBYDが世界的にトップレベルに躍り出るとみており、日本の自動車産業にとっては、徹底した研究対象とすべきであろう。

2024年8月26日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

中国自動車販売、新エネ車の割合がついに50%突破

近年、多様なニュースが報じられている中で、中国の新エネルギー車(NEV)販売比率が2024年7月に50%を突破したというニュースには驚かされる。ちなみに日本では、7月の新エネルギー販売比率は3%弱である。

全国乗用車市場情報連合会(CPCA)によれば、2024年7月の中国におけるNEV販売台数は前年同月比36.9%増の87.8万台に達し、自動車販売全体に占めるNEVの割合は51.1%に達したとのこと。

BYDは今年2月、「ガソリン車よりも安い電気自動車」というスローガンを掲げ、低価格戦略を発表した。その際、王伝福董事長は「中国新車市場のNEV比率は今年中に単月で50%を超える」と予言していたが、これは7月に達成されたことになる。

この現象は、日系自動車メーカーなど合弁ブランドのシェアが低下していることも意味している。王伝福董事長は、合弁ブランドのシェアが現在の44%から今後3~5年の間に10%まで低下すると予測していたが、これも早まったのではないだろうか。

日産自動車やホンダは人員削減や工場閉鎖のニュースが報じられているが、この傾向はさらに加速する可能性がある。筆者の懸念は、日系自動車メーカーがこの販売減少を受け入れた後、再度中国市場にNEVを投入することを検討しているが、中国のスピード感からして、中国市場がその時まで待ってくれるかどうかである。

2024年7月22日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

水素エンジン車に関する規制はどうなるのか

気になるニュースが流れている。
米オートモーティブニュースによれば、トヨタ自動車など複数の自動車メーカーが水素を燃料に使うエンジン車を開発しているが、カリフォルニア州はこれをゼロエミッション車(ZEV)と見なさない見解とのこと。

まだ最終確定ではないかもしれないが、理由として、カリフォルニア大気資源局(CARB)は、水素エンジン車は二酸化炭素(CO2)はほとんど排出しないものの、窒素酸化物などの汚染物質が発生するため「ZEVの定義に当てはまらない」という見解を示しているようだ。

ではZEV規定に当てはまらないのであれば、内燃機関車の一部となるのであろうか。カリフォルニア州は、2026年から始まる新たな規制「Advanced Clean Cars II」を定めており、対象車は電気自動車、燃料電池車、プラグインハイブリッド車のみである。

また規制は2026年に35%から始まり、その後、毎年要求比率が増加し、2035年には100%と定まっている。もし、当該ZEV規制の対象外となることは、開発している自動車メーカーにとって、意義を大きく損なうであろう。

さらに、欧州委員会が最終合意した「グリーンディール」政策の環境規制、つまり「ガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車も含めた内燃機関車の新規販売を2035年に禁止する法案」に関しても影響を及ぼす。今後、欧州でも水素エンジン車の対応について議論が起こるのではないだろうか。

既にBMWなどは水素エンジンに見切りをつけ、BEVもしくはFCEVに舵をきっているが、水素エンジン車は今後どうなるのか、その規制動向について見守りたい。

2024年6月24日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

日系自動車メーカーは中国でオズボーン効果を回避できるのか

日産自動車は中国にて江蘇省の自動車工場を閉鎖し、中国の生産能力を1割減らすと公表した。またホンダは、広州汽車集団(GAC Motor)との合弁会社「広汽本田汽車(広汽ホンダ)」が、全従業員の14%にあたる約1700人に対して、大規模な人員削減を進めていると公表している。

理由は、極端な販売不振である。新エネルギー車の低価格化によって、ガソリン車も苦境に陥った。日系自動車メーカーはこの4月、5月で対前年比2割減少となった。

具体例として、BYDは2024年2月「ガソリン車よりも安い電気自動車」というスローガンを掲げ、低価格戦略を発表した。BYDの2024年モデルにてPHEV 「秦 PLUS DM-i栄耀エディション」は7万9800元(約165万円)から、2024年モデルにてBEV 「秦 PLUS EV」は10万9800元(約230万円)からである。

またBYDの王伝福董事長は、中国自動車市場の合弁ブランドのシェア44%は、向こう3~5年の間に10%まで落ちると言及している。現在日系は14.4%のシェアであるが、そうすると3~5%まで下落であろうか。

そこで思い出すのが、オズボーン効果である。1983年、オズボーン・コンピュータ社は未完成だった次世代のコンピュータを発表し、これらが現在の商品を大きく上回っていることを強調した。このためユーザーの間で買い控えが起き、オズボーン社の売上は急落した。その結果、キャッシュフローと収益を悪化させ、結果的にオズボーン社は倒産した。つまり、早すぎる新製品発表と、新商品投入の遅れにより、企業収益を悪化させる現象が「オズボーン効果」と呼ばれている。

日産自動車やホンダなどの日系自動車メーカーも、中国市場にて2027~2028年頃には新エネルギー車を多数投入すると公表している。しかし、スピードの早い中国市場では、この段階で日系自動車メーカーの販売はさらに落ち込んでいると予想される。

日系自動車メーカーは、どちらかと言えば、欧米市場を重視してきたが、世界最大の市場で淘汰の憂き目にあうことは、屋台骨が危なくなると言える。やはり、優先度を高め、市場投入を早めることが生き延びる策ではないだろうか。

2024年5月20日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

ABtCに期待

2024年5月16日、一般社団法人「自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター」(Automotive and Battery Traceability Center:略称ABtC)より、EV用電池に関するトレーサビリティサービスを今後行うと公表された。

これまで欧州電池規制に対して、トヨタや日産自動車などでは対応可能であるものの、他自動車および電池メーカーなどは対応が厳しく、どうするのかと思っていた。

今回は自動車メーカー14社と業界団体がタッグチームを組み、最初の第一弾として電池のトレーサビリティサービスの運用を開始するとのこと。

電池のトレーサビリティは必須であり、極めて有効な第一歩と思える。特にトラッキングのために、ブロックチェーン技術を活用予定としており、この面での技術蓄積が期待できる。

これに関して、私は主に3つの課題があるのではと思っている。
1.時間軸 欧州電池規制は本格導入が2025年後半からであるが、日本からの輸出を考えると、2025年前半には体制が整わなければならないと思われる。今の時間軸で大丈夫であろうか。

2.データ収集 原材料調達から、製造時、使用、廃棄までCO2を把握しようとすれば、源流に遡るほど、把握が難しくなる。特に海外調達を介する場合はなおさらである。これをどうやって解決するか知恵が求められるであろう。

3.価格転嫁 トレーサビリティを行うことは、そのデータ収集にコストがかかることが予想される。原材料調達から、製造時、使用時、廃棄までの全工程にて発生するコストをいかに安価に抑えるかが課題であろう。

先行する欧州などを参考に、多くの課題を解決していくことを期待したい。

2024年4月22日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

PHEVのCO2排出量に疑問符か

欧州委員会が先般発表したPHEVのCO2排出量に関する報告は衝撃的である。実際に走行したデータを集めた結果、ガソリン車やディーゼル車のCO2排出量は認証値と+20%前後の差しかなかったが、PHEVの場合は3.5倍も上回った結果となったとのこと。

欧州委員会の調査からは、PHEVはEV走行比率をユーティリティファクターとして、70~85%と想定したにも関わらず、実際は個人ユーザーで45~49%、社用車では10~15%しかEV走行していない。

これでは何のためにPHEV化したのか分からなくなってしまう。欧州委員会は、この結果から、今後、ユーティリティファクターの基準を改訂し、PHEVのCO2排出量の見直しを行うようだ。

最近、BEVの減速に関連して、HEVやPHEVの販売台数増加が報道されているが、今回のPHEVの実態調査は、基準設定に対してさらに厳しい目が向けられるのではないだろうか。

https://smart-mobility.jp/_ct/17695637

2024年3月18日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

EVの反転は近いのでは

今年に入ってハイブリッド(以下HEV)復活の声が多いが、私から見ると、そろそろ
EVの反転が近いのではと思う。

ではなぜそう思うかと言えば、きっかけは、やはりBYDである。今年2月に入ると、BYDは「ガソリン車よりも安い電気自動車」をキャッチフレーズに低価格戦略を打ち出した。中国では、BYD 24年モデルにて「秦PLUS EV」が10万9800元(約225万円)から、PHEV「秦PLUS DM-i」は7万9800元(約165万円)からと一気に価格を下げてきた。

これを受けて、テスラを含め他のEV自動車メーカーも価格を下げざるを得ず、ある意味「チキンゲーム」の様相を見せている。これにはガソリン車、HEVを売っている日系自動車メーカーも大きな打撃を受けるであろう。

4月に入ると、BYDの大攻勢により新エネ車(BEV、PHEV)の販売が急拡大する。これは中国の話であるが、世界最大の自動車販売国である中国の動きは無視できず、特にドイツ自動車メーカーはこれまでの市場を失わないために、新エネ車に力を入れざるを得ない。

さらに、4月25日より北京にて「オートチャイナ2024(北京モーターショー)」が開催される。これも新エネ車一色になるであろう。世界で最も大きな自動車見本市としてメディアでも大きく取り上げる。

3月15日に日産・ホンダがEVで戦略的パートナーシップの覚書を締結したことは、すぐではないがEV反転の狼煙とも思える。

2024年の新エネ車販売台数は昨年に比べ300万台多い、1680万台前後と予想する調査会社もある。さて、どうなるであろうか。
https://36kr.jp/277454/

2024年2月19日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

                                             ”The time is now”

先日、スウェーデン大使館主催の持続可能な社会を目指す活動「Pioneer the possible」に参加した。今年で3回目となるサステナビリティサミットである。

なぜスウェーデンなのかと思われるかもしれないが、スウェーデンは本国のみならず、日本に於いてもカーボンニュートラルゼロを目指す活動を続けている。日本企業と協力することで、グリーントランスフォーメーション(GX)を加速することができると考え、開催を続けているようだ。

当日はスウェーデン大使館関係者を始め、約100名の来場者が参加していた。開催挨拶で、駐日スウェーデン大使のペールエリック・ヘーグベリ氏は、地球温暖化を 1.5 度に抑えるチャンスを得たいなら、今後8年間でCO2排出量を半分に削減する必要があると力説し、もうあまり時間がない、「The time is now」と各企業に行動を呼びかけた。

その後、スウェーデン発祥の日本企業や、日本から中央官庁、地方自治体、企業から発表が相次いだ。中には、商用として各社の電気自動車を活用している例もあり、使用してみてのメリットや課題なども発表された。

それにしても、在日の大使館が継続して活動を行っていることに驚かされる。それだけ、日本政府や企業は追い込まれている証左ではないだろうか。

2024年1月15日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 2024年、EVシフトは踊り場を恐れるな

最初に、能登半島地震および羽田空港事故により犠牲となられた方々に心よりお悔み申し上げるとともに、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

さて、昨今、EVシフトについては、ポジティブとネガティブなニュースがある。

ネガティブな面で言えば、米国に於けるBEVの販売台数が、2023年10-12月はわずか1.3%増にとどまった。また米国インフレ削減法(IRA)では、2024年1月1日から控除を受けられる車種が、2023年の43モデルから19モデルに減少した。

理由として、2024年から重要鉱物および部品に対する適用割合がそれぞれ10%引き上げられたことによる。この結果、日産リーフも対象から外れた。控除対象から外れた車種は、年々引き上げられるハードルに対し、必死に要件を満たすよう努力するであろう。

さらに、欧州委員会は2023年10月4日、中国からEUに輸入されるBEVについて、相殺関税の賦課を視野に入れた反補助金調査を開始した。今後、比亜迪(BYD)、吉利汽車、上海汽車集団の中国EV大手3社に調査員を派遣すると報じている。

このような状況から、EVシフトは曲がり角を迎えた、もしくは減退していくと考えるのは早計ではないだろうか。もし日系企業にてEVシフトへの対応をスローダウンさせようと考えるならば、挽回のチャンスを失うのではと危惧する。

これまで、EVシフトは50%UP、100%UPなどと年々大幅な伸びを示してきた。しかし、2024年はややスローダウンする、いわゆる「踊り場」の年と考えることが望ましい。踊り場とは、再上昇のための準備期間である。

証左として、ポジティブな面では、中国2023年のBEV/PHEV販売台数は950万台となり、約38%の伸長となった。2024年も好調を維持し、20%増の1150万台が予想されている。欧州での2024年のBEV/PHEV新車販売台数は20%増の300万台と予想されている。

言うまでもなく、欧州「2035年の内燃機関車の新車販売禁止」規制や、バイデン政権によるIRA法案の旗は降ろしていない。EVシフトへに対しては、短期ニュースに対して、一喜一憂することなく、どう踊り場に対応するかを考えることが望ましい年となろう。

2023年12月21日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

ダイハツの試験不正に思う#2

2023年5月22日のブログ「ビリビリ!とくる話」にて、ダイハツのポール側面衝突試験について述べた。

その時、「助手席の試験を実施し、運席の試験を省略して報告書を提出したのであれば、当時余程不都合なことが生じていたのではないかと推察してしまう。またこれは試験部門のみならず、設計部門、認証部門も知っていないと出来ないことであろう」と指摘した。

さらに、「今回の件は、単に部品不具合などのリコールと異なり、自動車会社の存続を揺るがすほど大きな案件となるのではないだろうか」と懸念を示していた。

12月20日第三者委員会およびダイハツが公表した「認証試験での不正は1989年(34年前)からであり、新たに25の試験項目で174個の不正行為が判明し、すべての車種で出荷を一時停止する」とは衝撃的である。

これから多くの事実が明らかとなってくるであろうが、筆者としては3つの要因があると思われる。
1.試験に対する認識の甘さ
 ダイハツは主に国内での販売であり、欧米での厳しい試験をあまり経験していない。このため、試験に対して不正をしても分らないと思ったのではないだろうか。海外で多く販売しているメーカーは、不正が発覚した際のインパクトを痛感している。

2.認証試験の位置づけに甘さ
 認証試験は、これまでに多くの事前試験を実施し、その後、改良を反映させた車両での確認であり、一発試験はあり得ない。もしこれが、報道されているように「認証は一発勝負であり、失敗は許されない」と考えているようであれば、これまで事前試験をあまり実施してこなかったのではないだろうか。開発プロセスやゲートシステムに誤りがあるとしか思えない。

3.開発責任者の権限の弱さ
 車両の開発責任者は、衝突安全性など、最も重視する項目であり、開発途中でどこまで出来ているのか、常に注視していたハズである。もし不都合が判明すれば、車両開発の中断、日程見直しなども出来たのではないだろうか。しかし、開発責任者の権限が弱ければ、経営幹部の意見に従う結果になってしまう。34年間も不正が続いていたということは、開発責任者の立場が極めて弱かったように思えてならない。

今回の不正は、ダイハツというブランドが消滅するくらい、大きくブランド価値が毀損している。もしこのまま生き残りを模索するのであれば、現在の経営陣、開発上層部を一新し、トヨタの小型車部門としてトヨタが直接経営することでない限り、生き残りは難しいと考える。

 

2023年11月20日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

      テスラに学び、独自の手法で実現するBYDのTMS

先般、BYD SEALに関して、私どもが主催している「一般社団法人自動車100年塾」のメンバーにて分解車両見学会を実施した。

BYD SEALはまだ日本では発売されていないが、e-Axleとして「8 in 1」 と呼ばれる8部品の統合や、電池パックと車体を一体化したCTB(Cell to Body)構造、多彩なマルチメディアを有するなど、魅力溢れるBEVとなっている。

その中で着目したのは、冷暖房をコントロールするTMS(Thermal Management System)である。筆者が見る限り、これはテスラがModel Yより採用したオクトバルブ付TMSを参考に開発したのではと思った。しかし、BYDの開発手法は、テスラのオクトバルブ付TMSを分解して、機能毎に分析し、再度、既存の技術(例えば9つの開閉弁)なども使いながら、構築しているように思えた。

おそらくBYDの技術者は、模倣するのではなく、どこまでテスラTMSに肉薄できるか悩んだのではないだろうか。その分、SEALのTMSサイズは大きくなっているが、寒冷地に於ける対応など、機能そのものは近づいたように思える。

近年、e-Axleが着目されているが、車両全体から考えると、冷暖房をコントロールするTMSをどう開発するかが、開発の上位に来るのではないだろうか。そしてTMSの良し悪しが車両の性能を決めてしまうことも多いと思う。

もっとも、自動車メーカーにとって、TMSを一新することは重い決断である。日系自動車メーカーでは最も苦手な領域と言えるかもしれない。BYDは道半ばとは言え、システムを一新してTMSでテスラに肉薄していることは、スピードと決断力の面でBYD恐るべしと思った。

2023年10月23日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

急速充電規格「NACS」に大切なもの

トヨタ自動車が、米テスラが採用している急速充電規格「NACS」を2025年から採用すると発表した。メディアでは、テスラによる車両データの収集を各自動車メーカーが懸念していると伝えている。しかし、筆者はもう一つ留意しなければならない点があると考える。

それは、テスラ車両とスーパーチャージャーは1対1の関係で良かった。しかし、今後北米にて多くの自動車メーカーがNACS方式を採用し、かつ今のスーパーチャージャーでは不足することから、他の急速充電器メーカーもNACS方式の急速充電器を製造するであろう。つまりn対nの関係になることを意味する。

充電時に、仕様書上はNACS規格を満足していても、充電できないなどのトラブルが発生することがある。このような時、多様なEVと急速充電の関係で最も大切なのは、相互接続性(Interoperability)である。これがうまく機能しないと信頼性を損なう。チャデモ規格では、チャデモ協議会が試験を実施し、各種急速充電器の認証を行ってきた。

今回のケースではn対nに対して、テスラが認証を行うとも考えにくいため、どうやって相互接続性(Interoperability)を担保するのか、その仕組みづくりが大切であろう。

2023年9月25日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

欧州大手自動車部品メーカーの業態転換に驚き

最近ほぼ毎月、欧州大手部品メーカーとお話をする機会が多いが、その変わり身の早さに驚かされる。これまで内燃機関の部品をメインに開発・製造してきたと思われるような会社も、現在はその主流をEVシフト関連部品に重点を移している。

e-Axle(モータ、インバータ、T/M等)や自動運転関連の部品でも、既に20年以上の歴史がありますというように、まるでシニセのような品揃えである。この変わり身はある意味、欧州の自動車メーカーより早いのかもしれない。

さらに、特徴的なのは、欧州の自動車メーカーのみならず、中国の大手・新興EVメーカーとも結び付きを深めていることだ。これは中国市場に参入するとともに、近年、中国メーカーが欧州で生産を拡大していることにも関連があるであろう。

ひるがえって、日系自動車部品メーカーの動きは総じて鈍い。EVシフトが来るのは、まだまだ先との考えであろうか。しかし、日系自動車メーカーは、中国での販売鈍化に伴い将来撤退するかのような動きを見せ、日系部品メーカーも足元は浮足立っている。

チャイナリスクがあるとはいえ、業態転換に遅れた日系部品メーカーは、結果的にEVシフト分野で競争力を失っていくのではないかと危惧する。

2023年8月28日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

ワイヤレス給電は普及への道筋がついたのか

私どもが開催している「一般社団法人自動車100年塾」では先週8月24日、米国WiTricity CorporationのVP of Business Developmentである岡田朋之様を基調講演者としてお招きした。

その中で驚かされたことの一つが、WiTricityによるCharging Systemの製造である。これまでWiTricityはワイヤレス給電に関するパテント開発をメインとし、製造に関しては自ら関与せず、他社に任せるビジネス形態を採用してきた。

しかし、ここに来て方針を転換し、自らCharging System (Wall Boxや Ground Pad)を自社開発し、他社に販売する方法に2023年から切り替えるとのこと。

ワイヤレス給電の難しいことの一つに、相互互換性(interoperability)がある。これはワイヤレス給電付き車両と、今後各地に設置予定の充電インフラであるCharging Systemの互換性をどう保つかということである。

筆者が自動車メーカー時代に着手したワイヤレス給電開発でも、これが難題となり、解決の糸口は見つけられなかった。

しかし、2019年にWiTricityがQualcomm Haloを買収して、世界共通化を図った結果、今ではIEC、ISO、SAEなどの標準・規格を取得し、世界に於ける事実上のデファクトとなったようだ。

今後Charging Systemを世界的に広げようとすると、まだまだ課題はあると思われるが、規格争いで角を突き合わせることなく、初期から拡大だけに専念することが出来ることは歓迎すべきことである。

2023年7月24日 和田憲一郎のビリビリとくる話

中国の新エネルギー車購入喚起策に注目

中国国家発展改革委員会は7月21日、「新エネルギー車に関する購入喚起策」を公表した。国家発展改革委員会が発表したことから着目したものの、一般的な発表に比べて意外なのである。

今回の公表では、10項目の購入喚起策を挙げているものの、具体的な数値や目標は一切掲げていない。あくまで概念、項目だけなのである。

そして、なぜここで公表かと考えると、不動産不況が報道される中、中国経済の底上げと、先般、テスラなどを含む中国自動車メーカー16社が過当競争を避けることで合意したことへの政府支援ではないかと思われる。

この中には2.ガソリン車の段階的廃止加速や、4.新エネルギー車の充電インフラ促進なども含まれている。具体的にどのような政策が示されるのか、今後も注視していきたい。

発表された10項目は以下のとおり。
1.地方政府に対し年間自動車購入枠の拡大を奨励
2.ガソリン車の段階的廃止加速(乗用車、商用車含む)
3.中古車市場の開拓促進
4.新エネルギー車の充電インフラ促進
 充電システムのインテリジェント化、電池交換ステーションの拡充
5.新エネルギー車の充電に対する農村部の送電網向上
6.新エネルギー車の購入・利用コスト削減
7.公共部門における新エネルギー車の調達拡大
8.自動車消費のための金融サービスの強化
9.自動車メーカーに対する経済的かつ実用的なモデル開発を奨励
10.駐車場に関する供給スペース、立地環境の改善

<新エネルギー車に関する購入喚起策:原文>
https://www.ndrc.gov.cn/xxgk/zcfb/tz/202307/t20230721_1358538.html

2023年6月26日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 GM、Fordによる急速充電規格変更に思う

今年6月上旬より、Fordおよび、GMがこれまで採用してきた急速充電規格であるコンバインド充電システム(以下CCS:Combined Charging System)から、テスラが採用する北米充電標準規格(以下NACS:North AmericanCharging Standard)に2024年より変更すると公表した。

最近は新興自動車メーカーのリビアン・オートモーティブまでもNACSに変更すると公表している。なぜ突然2つの巨大自動車メーカーが変更を申し出たのであろうか。両社ともその理由については明確にしていないが、推論として筆者の見解を述べてみたい。

過去を遡れば、急速充電規格が定まったのは約13年前である。日本発のCHAdeMO、中国のGB/Tに対抗する規格として、欧州主導にて米国がCCS1、欧州CCS2という規格が生まれた。急速充電プラグの中に普通充電口を内包したことから、CCS1とCCS2では形状が異なっている。

当時は、CCS規格に対して法規・規格部門を中心に立案されたが、今回の急激な方針変更は両社の営業、品質部門が起点ではないかと考える。

主な要因はおそらく2つと考える
1.CCS規格の信頼性に課題、さらにメンテナンスの弱さ
米国にてCCS1が設置されているものの、CCS規格の信頼性に課題があり、設置機器の故障率の多さにGM、Fordは危機を感じたのではないだろうか。以前よりCCS陣営に改善を申し入れていたものの、一向に改善されないことに嫌気を感じたと思われる。(米国ニュース報道によれば、カリフォルニア大学バークレー校の研究者がサンフランシスコのベイエリアにある675台のCCS急速充電器をチェックしたところ、ほぼ4分の1が機能していないことが判明したとある)

2.使い勝手でNACSに軍配
ユーザーエクスペリエンスの調査に於いても、NACSのほうが軽くて、小型化で、使い易いとの結果が出ていた。形状は見たら一目瞭然である。

今回の件で、北米はNACSが事実上の標準である「デファクトスタンダード」となるであろう。課題は欧州である。「少なくともCCSを設置」と欧州にて規定されているものの、米国にてCCS規格に対して不安が増したため、欧州でもCCSで本当に大丈夫なのかと議論が起こるであろう。

なお、中国では国家規格GB/Tとして制定されており、日本はCHAdeMO規格が95%以上もあることから、国・地域によっては既に固まっている場合、変更はない。しかし、日系自動車メーカーは各地でEVを販売することから、地域にあった充電規格に変更する必要が出てくる。

2023年5月22日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

ダイハツのポール側面衝突試験不正に思う

ダイハツが5月19日に発表した衝突安全に関する不正行為(ダイハツ・ロッキー、
トヨタ・ライズHEV車のポール側面衝突試験)に本当に驚かされた。

衝突試験は、地域・国によって多くの種別がある。前突試験、側突試験、ポール側突試験、後突頚部傷害保護試験、歩行者保護性能試験など多様である。

筆者もEV開発の前は内装設計を担当していたため、側突、特にポール側突試験は最も難しい衝突試験の一つであると認識していた。

国土交通省が定めるポール側突試験は、直径254mmの半球状の柱に、スピード32km/hにて、車体を75度に傾けて実施するものである。車両ダミー(MDB:移動台車)の側突試験に比べて、局所的に衝撃が加わることから、ボデー構造(サイドシル、ルーフ)、ドア内部の構造、サイドエアバッグ、天井のカーテンエアバッグなど、複雑な要素が絡み合う。

このため、設計段階からCAEを駆使して検討を行うとともに、試作車両などを用いた実車衝突試験では、社内基準(法規よりマージンを取った値)を満足することができるのか否か、設計・試験部門とも検討していく。

もし、今回説明のように、助手席の試験を実施し、運席の試験を省略して報告書を提出したのであれば、当時余程不都合なことが生じていたのではないかと推察してしまう。またこれは試験部門のみならず、設計部門、認証部門も知っていないと出来ないことであろう。

車両についていえば、助手席と運席はレイアウトが必ずしも同一でないこともあり、どちらかと言えば、ステアリングなどがある運席側が厳しい。

真因は判らないが、ダイハツは米国、欧州での販売からほぼ撤退しており、米国(NHTSA、IIHS)、欧州(Euro NCAP)など厳しい法規制に対して、実施する必要がなく、国内の衝突試験自体を軽んじていたようにも思えてならない。

今回の件は、単に部品不具合などのリコールと異なり、自動車会社の存続を揺るがすほど大きな案件となるのではないだろうか。事態の推移を見守りたい。

2023年4月17日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

欧州理事会のe-Fuel免責事項はガス抜きでは

欧州理事会は、2023年3月28日、2035年に内燃機関車の新車販売を禁止することで合意した。それに付随してe-Fuelも条件付きにて認めたことが話題となっている。

日本のメディアでは、2035年以降も、ガソリン車が販売継続可能となったとの報道も見られるが、筆者としては、これはかなりミスリードではないかと思える。

今回の発端は、欧州委員会、欧州議会、EU理事会の各官僚による長年の調整が終わり、政治的な承認となる欧州理事会(閣僚理事会)で終了する予定であったが、ドイツより2035年以降もe-Fuelを販売継続すべきであると、待ったがかかったことに端を発している。

この要請に対して、欧州理事会(閣僚理事会)は、免責事項として、2035年以降も
e-Fuelのみで走行する新車の販売を継続するための法的ルートを作ることを約束して決着をみた。

筆者から見るところ、議論の着地点は次の5つの要素から成り立っている。
・2035年に内燃機関の新車販売を禁止する法案に最終合意
・2035年以降もe-Fuelのみで走行する新車の販売を継続するための法的ルートを
作ることを約束
・e-Fuel車は、ガソリンやディーゼルを充填してもエンジンがかからないようにする
・e-Fuelでしか走れない車のための新しいEU車両カテゴリーを作る
・バイオ燃料は対象外とする

そして、今回の合意では、e-Fuelの定義として、再生可能なエネルギー源で生成した水素と、大気から直接回収した二酸化炭素(CO2)を混合することで作り出される合成燃料のみとしている。

ということは、通常、産業プロセス(工場)から回収した二酸化炭素(CO2)を混合することも考えられるが、今回は排除されている。

もともと、e-fuelなど合成燃料を使用した内燃機関車の是非は、2026年に再評価するとしていた。しかし、ドイツの横やりが入ったことから、欧州理事会(閣僚理事会)ではしぶしぶ認めたのであろう。

このため、e-Fuel使用に関しては、法的ルートを作ることを約束しているものの、実現には高いハードルを設け、そう簡単には認めないぞとの思いがあるのではないだろうか。

今後も議論が続くと予想されるが、e-Fuelは課題が多い。使用する水素の純度問題、大気から直接回収した二酸化炭素(CO2)の厳密さ、e-Fuelを製造する際に多くのエネルギーを用いることから生じるLCA問題など、問題山積である。

筆者は、e-Fuelの免責事項は、ドイツ提案に対して、形だけは認めるものの、いわゆるガス抜きでであり、実際はほとんど期待できないように思えてならない。

2023年3月20日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 「バッテリーパスポート」にて日本側対応に懸念

欧州にて実施しようとしている「バッテリーパスポート」に注目が集まっている。

ご存じない方のために補足すると、欧州を中心とする官民アライアンスである「グローバル・バッテリー・アライアンス(GBA)」が主催・推進しており、バッテリーに関する材料原産地、材料生産者、セル生産者、バッテリー重量、製造時の炭素排出量など、多くの指標をバッテリー毎に明記して、デジタルプラットホームとして管理しようとする動きである。

このアライアンスには、欧州自動車メーカーのみならず、テスラ、寧徳時代新能源科技(CATL)など現在120以上の企業・団体が加わっている。しかし、なぜか日系自動車メーカーや日系電池メーカーは加わっていない。

これまでも、欧州では私的なコンソーシアムや小規模のアライアンスから、次第に格上げし、法案の骨子が固まった頃には、修正しようとしても時既に遅しとなったことが多い。残念ながら、日系企業の場合、素案の段階では時期尚早として「待て」をしてしまうことがある。

近年、欧州発の規制は、あっという間に世界規格となることが多く、今回に関しても、事前の段階から参画していく姿勢が大切ではないだろうか。

GBA members:
https://www.globalbattery.org/about/members/

2023年2月27日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

トヨタが2026年に新プラットホームで新型BEVに落胆

最近、トヨタの次期社長である佐藤恒治氏は、事業改革構想を発表し、2026年に新プラットホームでレクサスの新型BEV(電気自動車)を商品化すると公表している。

しかし、今年はまだ始まったばかりである。3年以上先の世界では、テスラや中国企業であれば、今から企画しても、全くの新型BEVを2026年に発売可能であろう。たいへん申し訳ないが、これで世界で戦っていけるのであろうかと心配してしまう。

折しも、2022年に於ける「世界のBEV+PHEVブランド別販売台数TOP25」が公表されている。第1位は180万台以上を販売したBYD、第2位は130万台以上販売したテスラ、第3位は90万台のVW Groupと続く。しかし、日系企業では、第10位にルノー・日産・三菱連合、第23位にトヨタとなり、他の日系企業は圏外である。

筆者の勝手な予測かもしれないが、中国、米国、欧州の新序列は今後10年間も同様な形で推移するのではないかと思ってしまう。つまり、なかなか日系企業は上位に食い込めないであろう。

その最大の理由は、e-Mobility新時代に対して危機感が乏しいこと、スピードに対する希薄さ、コロナ終了で利益が回復していることへの安堵感ではないだろうか。

世界の主要な自動車業界が既に変わり始めており、まだ大丈夫と思っている日系企業はどうしても出遅れてしまっていると思えてならない。
https://www.ev-volumes.com/

2023年1月23日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 ノルウェーのEV販売比率に驚愕!

2023年の年明けて、最も驚いたニュースの一つがノルウェーに関することである。

ノルウェー道路連盟によれば、2022年の同国の乗用車販売に占める電気自動車(BEV)の販売比率が79.3%に達したとのこと。これは2021年の64.5%を大幅に上回る記録的な数字である。あくまでBEVのみであり、PHEVは含まれていない。

ノルウェーはもともと、BEVには熱心であったが、それほど販売比率が高かった訳ではない。筆者がノルウェーを訪れた約10年前には約3%レベルであった。それから僅か10年あまりで驚異的な飛躍を遂げたことになる。

いろいろな分析があるが、カギは主に2つとされている。
一つは、政府が電動化への重要なインセンティブを導入したこと。BEV普及を後押しするため、通行料の無料化、駐車場、免税などのインセンティブを導入した。

もう一つは、充電インフラの充実である。国は大規模な充電ネットワークを展開し、南北1,700 キロメートルにわたって5600台を超える急速充電器を設置した。人口540万人に対して驚くべき数値である。人々の意識改革も加わったであろう。

ひるがえって、日本では2022年のBEV新車販売比率は1.7%に過ぎない。軽自動車EVも登場して健闘したが、まだまだである。しかし、日本でも、意識改革や有効な政策を打つことで、変革が起こる可能性もあるのではないだろうか。

2022年12月12日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

海外から熱視線!

12月5日スウェーデン大使館主催の「スウェーデン・日本サステナビリティサミット2022」にパネリストとして参加した。その時感じたことを述べてみたい。

この会合は、スウェーデン大使館が主催し、政府高官や産業界の関係者を招いて、エネルギー、モビリティ、サーキュラリティの3つの分野に焦点を当て、ディスカッションを行ったものである。

モビリティ分野では、なぜ日本がEV化に慎重で進まないのかと議論になった。2022年の新車販売では、欧州は電気自動車やプラグインハイブリッド車が約20%前後で推移している。しかし、日本では軽自動車のEVが発売され健闘しているものの、その販売比率は約4%前後に留まっている。

このため、海外からみれば、日本はEV化に遅れており、内燃機関車に固執していると思われているようだ。小職からは、10年前に世界に先駆けて三菱・日産から電気自動車を発売したが、その後、本格的に取り組まなかったことで、時流から乗り遅れてしまったこと。充電インフラに対しても、文化的な違いもあり、取り組みが遅れたことなどを説明した。

それに対し理解を示すものの、日本はなぜ勇気をもってチャレンジしないのかと疑問の声もあった。日本にいると、日本の論理だけで過ごしてしまいがちである。しかし、今回のように海外から改めて指摘を受け、熱視線を浴びることで、やはり自ら変革できるようにならなければと、ひしひし思ったものである。

2022年11月9日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

米国「インフレ抑制法」は生煮えだったのか

それにしても、バイデン大統領が2022年8月16日に署名したた「インフレ抑制法」は何だったんだろうと思ってしまう。

本来なら米国の法律であることから、海外からはとやかく言うことはあまりないが、今回は海外から言いたい放題のようだ。

欧州連合は、控除要件が「最終組み立ては北米で行われること」と規定されていることに対し、欧州から輸出する電気自動車や電池のほか、関連機器はカナダとメキシコの製品と同等に扱うよう要請を出した。これでは、米国の法律として意味をなさなくなる。

また、韓国政府は、インフレ抑制法は、外国のEVメーカーにマイナス影響を与え、韓米自由貿易協定(FTA)や世界貿易機関(WTO)などの国際通商ルールにも違反する恐れがあると強調した。その結果、韓国製EVにも同一の税額控除を適用したり、税額控除の施行に3年の猶予期間を設けることなどを要請している。

珍しく、日本も負けじと「1.北米地域以外からの輸入完成車が税控除の適用除外となったこと、2.バッテリー材料の調達・加工要件が米国または米国の FTA締結国に狭く限定されていること、3.バッテリー部品の北米での製造・組み立て要件が導入されたこと」に懸念を示し、日本メーカーのEVも優遇を受けられるよう意見書を提出している。

このように、ここまで海外からボコボコに叩かれる法案は珍しいのではないだろうか。やはり、突貫工事で作成した法案のため、NHTSAやCARBのように細部を詰めて出てきた法案とはとても思えない。

ある意味、選挙対策としての「インフレ抑制」法案だったのかもしれないが、逆にあまりにアメリカファーストを謳うことで、関係国との協力関係にひびが入らないか、気になるところである。

性急な法案は周辺国に混乱を招くという、良い例のように思えてならない。

2022年10月24日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

政府リスキリング認定対象分野があまりにも狭いのでは

岸田政権は先般、成長産業への労働移動を促す「リスキリング支援」に今後5年間で1兆円を投じる方針を表明した。

これは、日本で出遅れている産業に対し、新たな知識を身に付けることで、労働生産性を向上させ、既存の人材を再活用する方策であろう。

では、どのような分野が対象となるのであろうかと、政府HPを検索してみると、「経済産業政策局 産業人材課」が窓口となっており、その中に、「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」が設定されている。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/reskillprograms/index.html

それによれば、リスキリング認定対象分野は次の3つである。また注記※にあるように1および2項の基礎・初級のITレベルは除く条件となっている。

1.AI、IoT、データサイエンス、クラウド
(デザイン思考、アジャイル開発等の新たな開発手法との組み合わせを含む)
2.高度なセキュリティやネットワーク
3.IT利活用(自動車モデルベース開発、自動運転、生産システムデジタル設計)
※1、2について、基礎・初級のITスキルは除きます。

筆者の感覚では、これは「リスキリング講座」というより、「プロフェッショナル
育成講座」のように思えてしまう。

言うまでもなく、自動車産業は日本の製造業の重要な柱である。喫緊の課題は、ガソリン車・ディーゼル車の知見・経験が主流であった自動車産業従事者を、新エネルギー車(電気自動車、燃料電池車、プラグインハイブリッド車)および開発に必要となるソフトウエア技術者を育成することであろう。

海外では、大手部品メーカーのボッシュが、世界40万人の社員に対して、今後10年間で2800億円を投じて、内燃機関技術者から電気自動車、ソフトウェア技術者に生まれ変わる計画を立てている。

そう考えると、日本のリスキリング政策は、プロフェッショナル育成のみならず、もっと大きな投網が必要のように思えてならない。

2022年9月26日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

中国でなぜかPHEV販売急増、これは必然なのだろうか

中国にてPHEVの販売が急増しているとのこと。思わず、えっ、と思ってしまう。というのは中国では圧倒的にBEV販売が多く、PHEVを手掛ける自動車メーカーはBYDなど少なかったからである。

しかし、9月25日付け報道によれば、8月の新車販売は、PHEVが対前年比で2.6倍増の14万4千台、1~8月の累計は2.7倍増の82万台とか。

もちろん、BEV販売は依然として多く、8月が対前年比93%増の52万台、8月までの累計では、対前年比2倍の304万台とのこと。

既にPHEVはBEVに対する販売比率27%まで迫ってきている。なぜこれほどPHEVが伸びたのかという問いに対して、中国関係者は、「中国のPHEV技術が先行者と肩を並べるまでに向上したこと」「PHEVに関する特許出願件数が全世界の約4割を占め、日本、ドイツを上回ったこと」を理由として挙げている。

また別の要因として、リチウムイオン電池などの原材料価格が高騰し、その結果、BEV価格が高価となり、手を出しにくくなってきたことも遠因であるだろう。

PHEVは日本やドイツの専売特許と思ってきたが、ここにきて中国も参入し、「三つ巴」の様相となってきた。いよいよ戦国時代の始まりであろうか。

2022年8月22日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

最近笑ったり、驚いた話題を2つ

イーロン・マスクがまたお茶目なことを8月17日Twitterに投稿した。”Also, I’m buying Manchester United ur welcome”。英国プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドを買おうとのこと。クリスティアーノ・ロナウドが退団意向との噂があり、ここが底値と思ったのであろうか。

その4時間後、「これはTwitterで長く続くジョークだ。どのスポーツチームも買収していない」「とはいえ、もしそうするならマンUだろう。子供の頃から私のお気に入りのチームだ」と投稿。

マンU買収額は2800億円とも言われており、イーロンなら買えるかもしれないと、ニュース速報が流れたことに、思わず吹いてしまった。

もう一つが、中国ギガ上海にて8月15日、製造開始から3年で生産累計100万台を達成したことである。これには心底驚かされた。なぜかと言えば、電気自動車は自動車メーカーが生産したいと思っても、需要とそれに対応する電池供給が続かなければ、台数は大幅に増えないのである。

ちなみにアイミーブは全生産台数で約24000台、日産リーフでもこれまで約50万台強である。それを考えると、いかにテスラの販売台数の勢いがすごいかが判る。多くの自動車メーカーもEV化を推進しているが、このスピード感について行けないのではないだろうか。最近、世界と日本のスピード感が違うように思えてならない。

2022年7月25日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 BYDの日本進出は黒船来襲に匹敵か

7月21日、BYDが日本で今後3車種のEVを販売するとの発表を聞いて、いよいよ来るべきものがきたと感じた。

BYDの強みは、これまで大量のEV生産・販売の実績、社内に豊富なソフトウェアエンジニアを抱えること、自社でリチウムイオン電池を生産できることにある。

ある意味、これはテスラにも当てはまり、王伝福氏、イーロン・マスク氏とカリスマ経営者が率いているところも同じであろう。

なぜ日本進出なのかとの問いに対して、私は3つを挙げたい。

1.日本市場のEV比率がまだ極めて低いこと
 国別でみると、日本市場は縮小したとはいえ、2021年の新車販売でも、中国、米国についで第3位(約445万台)に位置する。しかし、日本では、EVのシェアは0.5%に過ぎず、PHEVを合わせても1%である。ということは、これほど低いのであれば、これから伸びる可能性があると考えたのであろう。

2.EVバスでの経験が生きた
 BYDが日本にEVバスを持ち込んで以来、観光業者は価格が安く、世界で実績のあるBYDのEVバスを数多く導入してきた。BYDは、中国製車両が品質で厳しい日本で受け入れられるのかどうか慎重に検討してきたであろう。その結果、多くの導入実績から、例え中国製であっても、EVも日本市場に受け入れられると考えたのではないか。

 しかも、今回はテスラのようにオンラインではなく、約100箇所の販売代理店を構築しサービスを提供するとのこと。日本市場の顧客の実態にあった対面販売を採用し、橋頭保ではなく本腰を入れた戦略なのであろう。

3.日本の部品メーカーへのアプローチ
 もう一つ隠れた目的として、日本の部品メーカーへの関係深度があると思われる。BYDといえども、IGBTなど多くのパワエレ部品は日本企業に頼っている。ここでEVバスに続いてEV乗用車に進出することで、不足気味である半導体に関して、これまで以上に日系部品メーカーと繋がりを深めることができる、と考えたのではないだろうか。

 ひるがえって、日系自動車メーカーは、BYDの3つの強みに対する対応力が乏しい。BYDの正式価格はまだ公表されていないが、商品力は十分あり、リチウムイオン電池が自社生産であることから、意欲的な価格で攻め込んでくると考えられる。まさに、黒船来襲に匹敵するようなインパクトをもたらすのではないだろうか。

<ビーワイディージャパン株式会社のプレスリリース>
https://byd.co.jp/news/2022_0721_94.html

P.S.
乗用車の販売ならびに関連サービスを提供する100%出資子会社として、「BYD Auto Japan株式会社」の設立が同時に発表された。代表取締役社長に東福寺 厚樹氏が就任とのこと。東福寺さんとは三菱自動車時代に一緒に仕事をしたことがあり、この発表に驚かされた。

2022年6月27日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 自動車産業の常識 vs.テスラの常識

最近話題になっていることの一つに、テスラがCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)で2021年度に初めてマイナスになったことが報じられた。

CCCとは、商品や原材料を仕入れてから、生産・販売して代金が手元に入るまでの平均期間を示したもので、テスラは2021年度に-15日になったとのこと。

自動車産業の平均CCCは日本で約55日、米国でもほぼ同様、中国は約75日とやや長めである。

私自身もこれまで、自動車産業は、材料手配から、生産・販売までを考えると、かなりの日数が必要なのは当たり前と思っていたことから、テスラがCCCで-15日になったことに驚かされた。

過去を紐解いてみると、テスラは2014~2015年にCCCで54日であり、その後、努力して低下させてきたようだ。

他社で強烈な企業はアップルであり、CCCは-74日とのこと。1996年は+70日であったが、スティーブ・ジョブズやティム・クックがCCC低減に向けて指示を出し、年々低下させてきたようだ。-74日ということは、仕入れ先に支払うはるか前に販売代金が入金されていることを意味する。

今まで自動車産業はCCCが長いことが常識であり、またCCCをマイナスにするよう目標を打ち出したことも聞いたことがなかった。

しかし、世界の優良企業はこれも目標を立てて取り組んできた。商品開発のみならず、このような別の指標に対しても行動してきた結果が、大きな差異となったのであろうか。