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2021年7月19日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

織り込み済みのメーカーとサプライズのメーカー

欧州委員会は7月14日、ガソリン車など内燃機関の新車販売について、2035年に禁止する包括案を公表した。

これに対して驚かれた方も多いと思う。また欧州自動車工業会は「特定の技術を禁止することは合理的でない」と表明し反発している。

しかし、筆者から見ると、欧州委員会は、法案提出権を持つ実質の行政執行機関であり、このような重要法案に対して、事前に水面下で欧州連合理事会や、各国の市民代表である欧州議会に対して根回しをし、ほぼ法案通過の見込みがついたこと、また包括案の準備が整ったことから、公表に踏み切ったとみることが妥当ではないだろうか。

つまり欧州委員会は数か月前から事前交渉していたのであり、欧州自動車工業会はガソリン車業界に配慮して反発のポーズをみせているものの、VWなど大手自動車メーカーに表立った動きはない。本案は既に織り込み済みなのである。

ひるがえって、日系自動車メーカーはニュースに驚き、戦略の見直しを迫られている。欧州環境規制は、環境への配慮の面と、地域への戦略的な産業振興という面もある。包括案にて規制の前倒し競争は終止符が打たれ、一気にEV化が加速していくと思われる。

2021年6月28日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 Tesla『シルクロード』スーパーチャージャー・ルート

最近驚いたことの一つに、Teslaが構築した『シルクロード』スーパーチャージャー・ルートがある。

これは、5000kmにおよぶシルクロードに、27か所のスーパーチャージャーを設置し、移動可能にしたとのこと。

歴史的ランドマークであるシルクロードに、中国でもなく、ドイツでもなく、米国の自動車メーカーが最初に設置したことで、その構想力や実行力に驚かされた。

計画ではこれに留まらず、最終的には上海からロンドンまでスーパーチャージャーを繋ぎ、『マルコポーロ』スーパーチャージャー・ルートを完成させるとのこと。

1200年代後半、マルコポーロが24年かけて旅をし、「東方見聞録」を完成させた道を、今度は現代人がクルマ(EV)で旅することができるのであろうか。なんとも夢のある話である。

Tesla China silk road PV
https://www.youtube.com/watch?v=A8UZhpifmfc

2021年5月17日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 街作りやプラント作りにはプロセス開示も大切では

インターネットの発達により、COVID-19環境下でも、海外の街作りやプラント建設状況が公開されており、日本に於いても見ることができる事例が多くなってきました。

例えば、2018年末に訪問した北京南西に位置する新都市の雄安新区では、当時は地域全体の計画を示す展示場しかありませんでしたが、現在では巨大な雄安駅や、無数のオフィス・住居ビルが次々と建設されています。

また、プラントでは、テスラの独ギガベルリンや、米国ギガオースティンなどもリアルタイムではありませんが、かなりの頻度で状況公開しています。

ということは、これらの街作りやプラント建設は、単に進捗状況を知らせるだけでなく、投資家や、今後ここで働くことになる多数の人々にイメージをもってもらうことも目的としているのではないでしょうか。また言うまでもなくファンづくりの意味もあります。

ひるがえって、日本では何か新しい街づくりやプラント建設があったとしても、完成まで公開することはほとんどありません。静岡に建設中のトヨタWoven Cityなども同様です。

ここ数年、日本が他に後れを取ってきていることと、このように情報公開をためらい、殻に閉じこもっている考え方が影響しているように思えてなりません。

ご参考に、代表的な事例を2つ紹介します。

雄安新区:
https://www.youtube.com/watch?v=qqfoa98yQN4&t=276s

Tesla Giga Berlin:
https://www.youtube.com/watch?v=dM3C1Ay7qzs

2021年4月21日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

欧州発によるPHEVの終わりの始まりか

 実は、4月17日ロイターの報道に驚かされました。グリーンファイナンスに関するEU規則草案にて、2025年以降メーカーがPHEVを「サステナブル投資」に分類することを禁じるため、投資意欲を減退させる可能性があると報じたものです。

 まだ草案段階にも係わらず、これを報道することに驚かされるとともに、もし実現するとPHEVにとっては致命的になると思ったからです。

 欧州自動車メーカーは反発しているものの、2028年までの欧州製造計画では、EVが86車種製造される予定であるのに対し、PHEVはわずか28車種に減っているとのこと。現在、販売比率が50:50であることを考えれば、欧州自動車メーカーは草案を見通して、既に軸足をPHEVからEVに移しているようにも見えます。

 思い返せば、昨年9月に米加州のニューサム知事が、2035年に州内で販売される新型車は「ゼロエミッション車」を義務づけると発表した時、これで多くのガソリンスタンドが廃業となることから、結果的にPHEVも減るのではと思いました。

 しかし、それは米国の話であり、欧州ではまだ大丈夫との思いがあったのですが、まさかCO2規制やLCAではなく、サステナブル投資にてPHEVが規制の対象になるとは予想もしませんでした。まさに、欧州発によるPHEVの終わりの始まりなのでしょうか。

 欧州の動きを受けて、中国はもともとPHEV比率が少ないことから、NEVのPHEVクレジットを下げるなど、PHEVの価値(ポジション)を下げるかもしれません。

 日本では、これからPHEVだと思っている自動車メーカーもあると思いますが、世界は想像以上のスピードで動きつつあり、必死にくらいついていかないと生き残れないような気がします。

2021年3月22日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

米国のEVに対する新政策

 EVに関する報道が多いので、日頃それほど驚かないが、先日、米国上院議員で院内総務を務めるチャック・シューマー氏が、メディアのインタビューで明らかにしたことに驚かされたので、少し紹介したい。

 骨子は、バイデン政権にて、エンジンからバッテリーへの動力源の転換を目的とした「Cash for Clunkers 2.0」が実施されるかもしれないとのこと。”Clunkers”とはとはポンコツ車を意味するもので、2009年には既に
「Cash for Clunkers」(燃費の悪い旧式車から低燃費車への買替補助制度)が行われた実績を持つ。

 大きな柱は以下3つのようだ。
・EVの購入者に現在適用されている税控除額は7500ドル(約81万6000円)を上回る。
・内燃エンジンの製造を段階的に取りやめ、EVを生産するために工場や施設を
 改修する企業に、170億ドル(約1兆8500億円)を支給する案を盛り込む。
・充電インフラに450億ドル(約4兆9000億円)を投資する。

 まだ未確定のためか、それほど大きな記事ではなかったものの、上院議員で院内総務を務めるシューマー氏が言い始めることで現実味を持つ。トランプ政権とは異なり、一気にEV化を推し進めようとする政権としての意気込みであろうか。それにしても、掛け声だけの日本はどうするのだろうか。

2021年2月15日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

アップルカーの条件

 アップルが販売する、いわゆるアップルカーについて、話題のためか、意見を求められる機会が多い。筆者は当事者でないので、真偽は不明であるが、もし2024年~2025年に販売しようとすれば、少なくとも本年度中に相手先を決め、取り掛かる必要があるように思えてならない。

 そのため、もし筆者がアップル自動車事業の責任者だった場合、どのような条件を考えるのか、彼らの頭の中を想像してみた。

 まず、アップルはクルマに関して、調査・研究はしているものの、実際にクルマを開発・製造したことはない。このため、iPhoneのように、自社開発し、製造はEMS大手の鴻海精密工業(フォックスコン)などに製造委託するという訳にはいかない。

 つまり、候補となる自動車メーカーは製造委託というより、ある意味、共同開発のパートナーとして扱う必要があるのではないだろうか。その場合、ジョブシェアや責任範囲など、調整に相当時間を要すると推察される。

 では、候補自動車メーカーを考える時、どのような条件を設定するのであろうか。筆者は少なくとも下記3つの項目は必須と考える。

1.EVに関する量産経験を有すること
 これはとても大切である。アップルは初年度でも10万台、数年後にはテスラに匹敵する年間50万台以上を想定しているであろう。そのため、少量しか生産経験がない自動車メーカーでは、経験不足とみるのが妥当ではないだろうか。

2.自動運転で数多くの知見・経験を有すること
 アップルは当初は完全自動運転でないにしても、将来は自動運転を視野に入れていると思われる。その場合、アップルが元自動車エンジニアを集めて調査・研究していても、やはりクルマとしての挙動など、どうしても自動車メーカーとのタイアップが必要となる。そのため、自動運転に関する知見・経験があることを求めるのではないだろうか。これは自動車メーカーとの共同開発エリアになろう。

3.電池供給を自らの判断でコントロールできること
 実はこれが最も重要かもしれない。アップルはモノ作りは自ら手掛けないため、電池メーカーからの供給を受けるであろう。しかし、EV化が急激に進展するにつれ、世界的にどの電池メーカーも余裕がなくなってきている。

 つまり、優先的に電池を確保し、コスト的にも安価で抑えようとすれば、自動車メーカーにて電池ボリューム、価格をコントロール出来ることが望ましい。そう見渡すと、例えば、自動車メーカーでありながら、元々電池メーカーであったり、電池部門を社内カンパニーとして内包していたが、現在は外部に出して独立させているところもある。いずれも自ら電池生産ボリュームをコントロール可能とみるべきであろう。

 このように考えると、世界中で候補となる企業は限定されるのではないだろうか。ただし、これはアップルの思惑だけで決まるものではなく、候補企業の考え方にもより、これからどのような選択となっていくのか、楽しみである。

2021年1月18日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

日本型スマートシティの未来とは

 最近、スマートシティについてたびたび聞かれる。しかし、聞かれるたびに、特に日本型スマートシティは「なんだかなぁ・・・」と思ってしまうのである。

 世界中でスマートシティと呼ばれるプロジェクトは40以上と言われている。有名なところでは、中国の北京南西に位置する「雄安新区」であろう。また米国オハイオ州コロンバス市は全米のスマートシティコンテストに優勝し、一躍有名となった。

 コロンバス市は訪問したことがないが、雄安新区は以前に訪問したことがある。当時は展示場など数か所の建物だけであったが、最近のニュースによれば、雄安新区駅もほぼ完成し、駅のプラットホームは高鉄(日本の新幹線)路線が約20本もあるとか。上海虹橋駅並みの巨大な駅である。

 さて、筆者が思うスマートシティは、最初に都市計画と都市交通がセットで計画されるべきと思っている。雄安新区などは、都市計画のグランドデザインを描いた上で、空港、高鉄、高速道路、地下鉄など、最新の都市交通システムを載せている。

 とろこが、日本で進めるスマートシティは、土地の狭さもあるのかもしれないが、そのようなことはほとんど反映されていない。静岡で進める「Woven City」でも、あくまで実証試験都市という位置づけのためか、そこにたどり着く都市交通は配慮されず、域内で運行するモビリティ、IoT、MaaSなどが検討されているのみである。

 他のスマートシティ、例えば、東京港区竹芝地区で進めるスマートシティも、浜松町の駅が隣接するためか、IoT、ビッグデータ、ネットワークの拡張に主眼が置かれている。

 結局、日本で行っているものは、スマートシティというより、スマートタウン、町内という意味でのスマートブロック、もしくはスマートビルに留まっているように思えてならない。冒頭「なんだかなぁ」とつぶやいたのはその理由である。

 日本でも過去に大きな都市創造は行われた。例えば、長岡京から、平安京への遷都である。長岡京が設立10年で度々の水害にみまわれ、急遽、東側に平安京を遷都実施した。中国長安をモデルに設計され、条坊制(いわゆる碁盤目状)を本格的に施行したことは有名である。

 このように考えると、各地に複数のスマートシティ実証試験都市として創るよりも、東京付近ではなく、少し離れたところに、人口20~30万人程度が住める都市構想をぶち上げてはどうだろうか。

 地方は疲弊しており、活性化も含めて、実際に日本型スマートシティをリアルワールドとして創ることで、見えてくる課題や未来形もあるのでないだろうか。

2020年12月21日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

出し惜しみなのか、出せるネタがないのか

 昨日、第14回日中省エネルギー・環境総合フォーラムの「自動車の電動化・スマート化分科会」に出席した。

 日中省エネルギー・環境総合フォーラムは、省エネや環境問題に対して、日中が毎年相互に開催しており、昨年は東京開催だったので、今年は北京開催の番であった。新型コロナの影響もあり、主催者は中国側であるものの、初のオンライン開催となった。

 筆者も自動車メーカー在籍時は、北京開催の時に講演した経験がある。参加者は自動車の専門家であり、どのような発表を日中で行うのか、お互いに関心をもっている会合である。

 さて、今回の分科会は中国側5人、日本側5人が講演したが、筆者の印象では、日本側が何となく出し惜しみしているように感じた。

 中国側は、EV用電池で世界最大となった寧徳時代新能源科技(CATL)の創業者で、現在は副董事長を務める李平氏が、CATLが考える将来の電池の方向性などを説明したり、ZTEの子会社が、テスラモデル3の統合ECUに匹敵するAIチップを開発して、量産化したなど、多くの力作があったように思えた。

 一方、日本側はトヨタが新型ミライFCVの開発経緯について発表があったものの、全体として乏しいように思えた。会合が終わってから、これは出し惜しみなのか、それとも出せるネタがないのだろうかと思ってしまった。

 自動車や関連するIT、AI、エネルギー、都市交通など、中国側は急速に力をつけてきており、日本から学ぶものがないと思うと、この分科会も次第にすたれていってしまう。そんな危機感をもった会合であった。

2020年11月4日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

テスラ モデル3のプロジェクトマネージャーに敬意

 先週、テスラ モデルSとモデル3の分解を視察する機会があった。時系列でいえば、モデルSが先に発売され、モデル3が後に出たクルマとなる。

 この2つのクルマを見比べて、改めて驚かされたことがあった。一言でいうと、モデルSは手作り品、モデル3は50万台製造を前提にした完全なる工業量産製品という感じである。

 紙面の関係で詳細に説明できないが、電池パックの統制された考え方や、これまで60~70個あったECUを3つのECUに取りまとめたこと、さらには自動運転に対応した統合ECUの採用など驚きの連続である。

 もし私がテスラ モデル3のプロジェクトマネージャーであれば、このようなことが実施できたかと自問すると、あまりにもリスクが大きいことや、取引先との関係が破壊されてしまうこと、統合ECUはAIへの技術完成度に対する不安などによって、モデルSからの一部改良に留まってしまうように思えてならない。

 しかし、現実にはモデル3にて、これまでの自動車エンジニアでは躊躇してしまう大胆なアイデアを多数搭載しており、その見識と実行力に敬意を表さずにはいられない。

 おそらく、開発中も、設計・実験部隊から「ムリだ!」「出来ない!」「利益が出ない」「日程に間に合わない!」など突き上げることが多く、胃に穴が開くような状態だったのではないだろうか。そのような中で、多くの隘路を上手く差配しながら、量産に漕ぎつけた力量は驚きである。

 テスラの将来性はどうかという人がいるが、テスラの強みは、このような優れたプロジェクトマネージャーを採用し、育成していることかもしれない。

2020年10月7日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

クルマが先か、インフラが先か

 最近、燃料電池車(以下FCV)の将来性について聞かれることが多い。背景には、米国で二コラという会社が、FCVトラックを開発し売り出しそうとしているだとか、中国にてFCV開発企業に奨励金を出すなど、状況を気にしている人が多いようだ。

 しかし、ガソリン車と違って、EVやFCVはクルマ単独のスタンドアローンでは済まない。EVが出現した時も、クルマが先か、充電インフラが先かの議論があった。当時は、いくら試作車を見せても、充電インフラ企業はなかなか投資に踏み切れず、結果として日本では、クルマが先、インフラが後となった。もしくは自動車メーカーが自ら設置していった。

 一方、欧州などでは、i-MiEVやLeafが発売されたことを見て、充電インフラに関する年次計画を立て、インフラが先、クルマは後とした国が多かったように思える。

 さて、冒頭の話であるが、筆者は、FCVに関して、日本のみならず海外の国々でも、クルマうんぬんより、水素ステーションのインフラが先でないと発展しないのではないかと伝えている。というのは、EVであれば、家でも充電できるが、FCVでは水素ステーションがないと、どうにもならない。また経路充電(充填)のように、移動ルートにピンポイントにあっても不十分であろう。

 もし日本で普及させるためには、現在のように100箇所あまりではなく、例えば、EV向けのチャデモ式急速充電器が現在約8000基あることを考えると、少なくともその半分、4000基程度を2030年ぐらいまでに設置することが必要ではないだろうか。

 問題は、それを誰が設置し、どのようにして事業として運営し続けられるかであろう。筆者の勝手な考えでは、これもFCVを販売する自動車メーカーの領域のように思えてならない。