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2024年7月22日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

水素エンジン車に関する規制はどうなるのか

気になるニュースが流れている。
米オートモーティブニュースによれば、トヨタ自動車など複数の自動車メーカーが水素を燃料に使うエンジン車を開発しているが、カリフォルニア州はこれをゼロエミッション車(ZEV)と見なさない見解とのこと。

まだ最終確定ではないかもしれないが、理由として、カリフォルニア大気資源局(CARB)は、水素エンジン車は二酸化炭素(CO2)はほとんど排出しないものの、窒素酸化物などの汚染物質が発生するため「ZEVの定義に当てはまらない」という見解を示しているようだ。

ではZEV規定に当てはまらないのであれば、内燃機関車の一部となるのであろうか。カリフォルニア州は、2026年から始まる新たな規制「Advanced Clean Cars II」を定めており、対象車は電気自動車、燃料電池車、プラグインハイブリッド車のみである。

また規制は2026年に35%から始まり、その後、毎年要求比率が増加し、2035年には100%と定まっている。もし、当該ZEV規制の対象外となることは、開発している自動車メーカーにとって、意義を大きく損なうであろう。

さらに、欧州委員会が最終合意した「グリーンディール」政策の環境規制、つまり「ガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車も含めた内燃機関車の新規販売を2035年に禁止する法案」に関しても影響を及ぼす。今後、欧州でも水素エンジン車の対応について議論が起こるのではないだろうか。

既にBMWなどは水素エンジンに見切りをつけ、BEVもしくはFCEVに舵をきっているが、水素エンジン車は今後どうなるのか、その規制動向について見守りたい。

2024年6月24日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

日系自動車メーカーは中国でオズボーン効果を回避できるのか

日産自動車は中国にて江蘇省の自動車工場を閉鎖し、中国の生産能力を1割減らすと公表した。またホンダは、広州汽車集団(GAC Motor)との合弁会社「広汽本田汽車(広汽ホンダ)」が、全従業員の14%にあたる約1700人に対して、大規模な人員削減を進めていると公表している。

理由は、極端な販売不振である。新エネルギー車の低価格化によって、ガソリン車も苦境に陥った。日系自動車メーカーはこの4月、5月で対前年比2割減少となった。

具体例として、BYDは2024年2月「ガソリン車よりも安い電気自動車」というスローガンを掲げ、低価格戦略を発表した。BYDの2024年モデルにてPHEV 「秦 PLUS DM-i栄耀エディション」は7万9800元(約165万円)から、2024年モデルにてBEV 「秦 PLUS EV」は10万9800元(約230万円)からである。

またBYDの王伝福董事長は、中国自動車市場の合弁ブランドのシェア44%は、向こう3~5年の間に10%まで落ちると言及している。現在日系は14.4%のシェアであるが、そうすると3~5%まで下落であろうか。

そこで思い出すのが、オズボーン効果である。1983年、オズボーン・コンピュータ社は未完成だった次世代のコンピュータを発表し、これらが現在の商品を大きく上回っていることを強調した。このためユーザーの間で買い控えが起き、オズボーン社の売上は急落した。その結果、キャッシュフローと収益を悪化させ、結果的にオズボーン社は倒産した。つまり、早すぎる新製品発表と、新商品投入の遅れにより、企業収益を悪化させる現象が「オズボーン効果」と呼ばれている。

日産自動車やホンダなどの日系自動車メーカーも、中国市場にて2027~2028年頃には新エネルギー車を多数投入すると公表している。しかし、スピードの早い中国市場では、この段階で日系自動車メーカーの販売はさらに落ち込んでいると予想される。

日系自動車メーカーは、どちらかと言えば、欧米市場を重視してきたが、世界最大の市場で淘汰の憂き目にあうことは、屋台骨が危なくなると言える。やはり、優先度を高め、市場投入を早めることが生き延びる策ではないだろうか。

2024年5月20日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

ABtCに期待

2024年5月16日、一般社団法人「自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター」(Automotive and Battery Traceability Center:略称ABtC)より、EV用電池に関するトレーサビリティサービスを今後行うと公表された。

これまで欧州電池規制に対して、トヨタや日産自動車などでは対応可能であるものの、他自動車および電池メーカーなどは対応が厳しく、どうするのかと思っていた。

今回は自動車メーカー14社と業界団体がタッグチームを組み、最初の第一弾として電池のトレーサビリティサービスの運用を開始するとのこと。

電池のトレーサビリティは必須であり、極めて有効な第一歩と思える。特にトラッキングのために、ブロックチェーン技術を活用予定としており、この面での技術蓄積が期待できる。

これに関して、私は主に3つの課題があるのではと思っている。
1.時間軸 欧州電池規制は本格導入が2025年後半からであるが、日本からの輸出を考えると、2025年前半には体制が整わなければならないと思われる。今の時間軸で大丈夫であろうか。

2.データ収集 原材料調達から、製造時、使用、廃棄までCO2を把握しようとすれば、源流に遡るほど、把握が難しくなる。特に海外調達を介する場合はなおさらである。これをどうやって解決するか知恵が求められるであろう。

3.価格転嫁 トレーサビリティを行うことは、そのデータ収集にコストがかかることが予想される。原材料調達から、製造時、使用時、廃棄までの全工程にて発生するコストをいかに安価に抑えるかが課題であろう。

先行する欧州などを参考に、多くの課題を解決していくことを期待したい。

2024年4月22日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

PHEVのCO2排出量に疑問符か

欧州委員会が先般発表したPHEVのCO2排出量に関する報告は衝撃的である。実際に走行したデータを集めた結果、ガソリン車やディーゼル車のCO2排出量は認証値と+20%前後の差しかなかったが、PHEVの場合は3.5倍も上回った結果となったとのこと。

欧州委員会の調査からは、PHEVはEV走行比率をユーティリティファクターとして、70~85%と想定したにも関わらず、実際は個人ユーザーで45~49%、社用車では10~15%しかEV走行していない。

これでは何のためにPHEV化したのか分からなくなってしまう。欧州委員会は、この結果から、今後、ユーティリティファクターの基準を改訂し、PHEVのCO2排出量の見直しを行うようだ。

最近、BEVの減速に関連して、HEVやPHEVの販売台数増加が報道されているが、今回のPHEVの実態調査は、基準設定に対してさらに厳しい目が向けられるのではないだろうか。

https://smart-mobility.jp/_ct/17695637

2024年3月18日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

EVの反転は近いのでは

今年に入ってハイブリッド(以下HEV)復活の声が多いが、私から見ると、そろそろ
EVの反転が近いのではと思う。

ではなぜそう思うかと言えば、きっかけは、やはりBYDである。今年2月に入ると、BYDは「ガソリン車よりも安い電気自動車」をキャッチフレーズに低価格戦略を打ち出した。中国では、BYD 24年モデルにて「秦PLUS EV」が10万9800元(約225万円)から、PHEV「秦PLUS DM-i」は7万9800元(約165万円)からと一気に価格を下げてきた。

これを受けて、テスラを含め他のEV自動車メーカーも価格を下げざるを得ず、ある意味「チキンゲーム」の様相を見せている。これにはガソリン車、HEVを売っている日系自動車メーカーも大きな打撃を受けるであろう。

4月に入ると、BYDの大攻勢により新エネ車(BEV、PHEV)の販売が急拡大する。これは中国の話であるが、世界最大の自動車販売国である中国の動きは無視できず、特にドイツ自動車メーカーはこれまでの市場を失わないために、新エネ車に力を入れざるを得ない。

さらに、4月25日より北京にて「オートチャイナ2024(北京モーターショー)」が開催される。これも新エネ車一色になるであろう。世界で最も大きな自動車見本市としてメディアでも大きく取り上げる。

3月15日に日産・ホンダがEVで戦略的パートナーシップの覚書を締結したことは、すぐではないがEV反転の狼煙とも思える。

2024年の新エネ車販売台数は昨年に比べ300万台多い、1680万台前後と予想する調査会社もある。さて、どうなるであろうか。
https://36kr.jp/277454/

2024年2月19日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

                                             ”The time is now”

先日、スウェーデン大使館主催の持続可能な社会を目指す活動「Pioneer the possible」に参加した。今年で3回目となるサステナビリティサミットである。

なぜスウェーデンなのかと思われるかもしれないが、スウェーデンは本国のみならず、日本に於いてもカーボンニュートラルゼロを目指す活動を続けている。日本企業と協力することで、グリーントランスフォーメーション(GX)を加速することができると考え、開催を続けているようだ。

当日はスウェーデン大使館関係者を始め、約100名の来場者が参加していた。開催挨拶で、駐日スウェーデン大使のペールエリック・ヘーグベリ氏は、地球温暖化を 1.5 度に抑えるチャンスを得たいなら、今後8年間でCO2排出量を半分に削減する必要があると力説し、もうあまり時間がない、「The time is now」と各企業に行動を呼びかけた。

その後、スウェーデン発祥の日本企業や、日本から中央官庁、地方自治体、企業から発表が相次いだ。中には、商用として各社の電気自動車を活用している例もあり、使用してみてのメリットや課題なども発表された。

それにしても、在日の大使館が継続して活動を行っていることに驚かされる。それだけ、日本政府や企業は追い込まれている証左ではないだろうか。

2024年1月15日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 2024年、EVシフトは踊り場を恐れるな

最初に、能登半島地震および羽田空港事故により犠牲となられた方々に心よりお悔み申し上げるとともに、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

さて、昨今、EVシフトについては、ポジティブとネガティブなニュースがある。

ネガティブな面で言えば、米国に於けるBEVの販売台数が、2023年10-12月はわずか1.3%増にとどまった。また米国インフレ削減法(IRA)では、2024年1月1日から控除を受けられる車種が、2023年の43モデルから19モデルに減少した。

理由として、2024年から重要鉱物および部品に対する適用割合がそれぞれ10%引き上げられたことによる。この結果、日産リーフも対象から外れた。控除対象から外れた車種は、年々引き上げられるハードルに対し、必死に要件を満たすよう努力するであろう。

さらに、欧州委員会は2023年10月4日、中国からEUに輸入されるBEVについて、相殺関税の賦課を視野に入れた反補助金調査を開始した。今後、比亜迪(BYD)、吉利汽車、上海汽車集団の中国EV大手3社に調査員を派遣すると報じている。

このような状況から、EVシフトは曲がり角を迎えた、もしくは減退していくと考えるのは早計ではないだろうか。もし日系企業にてEVシフトへの対応をスローダウンさせようと考えるならば、挽回のチャンスを失うのではと危惧する。

これまで、EVシフトは50%UP、100%UPなどと年々大幅な伸びを示してきた。しかし、2024年はややスローダウンする、いわゆる「踊り場」の年と考えることが望ましい。踊り場とは、再上昇のための準備期間である。

証左として、ポジティブな面では、中国2023年のBEV/PHEV販売台数は950万台となり、約38%の伸長となった。2024年も好調を維持し、20%増の1150万台が予想されている。欧州での2024年のBEV/PHEV新車販売台数は20%増の300万台と予想されている。

言うまでもなく、欧州「2035年の内燃機関車の新車販売禁止」規制や、バイデン政権によるIRA法案の旗は降ろしていない。EVシフトへに対しては、短期ニュースに対して、一喜一憂することなく、どう踊り場に対応するかを考えることが望ましい年となろう。

2023年12月21日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

ダイハツの試験不正に思う#2

2023年5月22日のブログ「ビリビリ!とくる話」にて、ダイハツのポール側面衝突試験について述べた。

その時、「助手席の試験を実施し、運席の試験を省略して報告書を提出したのであれば、当時余程不都合なことが生じていたのではないかと推察してしまう。またこれは試験部門のみならず、設計部門、認証部門も知っていないと出来ないことであろう」と指摘した。

さらに、「今回の件は、単に部品不具合などのリコールと異なり、自動車会社の存続を揺るがすほど大きな案件となるのではないだろうか」と懸念を示していた。

12月20日第三者委員会およびダイハツが公表した「認証試験での不正は1989年(34年前)からであり、新たに25の試験項目で174個の不正行為が判明し、すべての車種で出荷を一時停止する」とは衝撃的である。

これから多くの事実が明らかとなってくるであろうが、筆者としては3つの要因があると思われる。
1.試験に対する認識の甘さ
 ダイハツは主に国内での販売であり、欧米での厳しい試験をあまり経験していない。このため、試験に対して不正をしても分らないと思ったのではないだろうか。海外で多く販売しているメーカーは、不正が発覚した際のインパクトを痛感している。

2.認証試験の位置づけに甘さ
 認証試験は、これまでに多くの事前試験を実施し、その後、改良を反映させた車両での確認であり、一発試験はあり得ない。もしこれが、報道されているように「認証は一発勝負であり、失敗は許されない」と考えているようであれば、これまで事前試験をあまり実施してこなかったのではないだろうか。開発プロセスやゲートシステムに誤りがあるとしか思えない。

3.開発責任者の権限の弱さ
 車両の開発責任者は、衝突安全性など、最も重視する項目であり、開発途中でどこまで出来ているのか、常に注視していたハズである。もし不都合が判明すれば、車両開発の中断、日程見直しなども出来たのではないだろうか。しかし、開発責任者の権限が弱ければ、経営幹部の意見に従う結果になってしまう。34年間も不正が続いていたということは、開発責任者の立場が極めて弱かったように思えてならない。

今回の不正は、ダイハツというブランドが消滅するくらい、大きくブランド価値が毀損している。もしこのまま生き残りを模索するのであれば、現在の経営陣、開発上層部を一新し、トヨタの小型車部門としてトヨタが直接経営することでない限り、生き残りは難しいと考える。

 

2023年11月20日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

      テスラに学び、独自の手法で実現するBYDのTMS

先般、BYD SEALに関して、私どもが主催している「一般社団法人自動車100年塾」のメンバーにて分解車両見学会を実施した。

BYD SEALはまだ日本では発売されていないが、e-Axleとして「8 in 1」 と呼ばれる8部品の統合や、電池パックと車体を一体化したCTB(Cell to Body)構造、多彩なマルチメディアを有するなど、魅力溢れるBEVとなっている。

その中で着目したのは、冷暖房をコントロールするTMS(Thermal Management System)である。筆者が見る限り、これはテスラがModel Yより採用したオクトバルブ付TMSを参考に開発したのではと思った。しかし、BYDの開発手法は、テスラのオクトバルブ付TMSを分解して、機能毎に分析し、再度、既存の技術(例えば9つの開閉弁)なども使いながら、構築しているように思えた。

おそらくBYDの技術者は、模倣するのではなく、どこまでテスラTMSに肉薄できるか悩んだのではないだろうか。その分、SEALのTMSサイズは大きくなっているが、寒冷地に於ける対応など、機能そのものは近づいたように思える。

近年、e-Axleが着目されているが、車両全体から考えると、冷暖房をコントロールするTMSをどう開発するかが、開発の上位に来るのではないだろうか。そしてTMSの良し悪しが車両の性能を決めてしまうことも多いと思う。

もっとも、自動車メーカーにとって、TMSを一新することは重い決断である。日系自動車メーカーでは最も苦手な領域と言えるかもしれない。BYDは道半ばとは言え、システムを一新してTMSでテスラに肉薄していることは、スピードと決断力の面でBYD恐るべしと思った。

2023年10月23日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

急速充電規格「NACS」に大切なもの

トヨタ自動車が、米テスラが採用している急速充電規格「NACS」を2025年から採用すると発表した。メディアでは、テスラによる車両データの収集を各自動車メーカーが懸念していると伝えている。しかし、筆者はもう一つ留意しなければならない点があると考える。

それは、テスラ車両とスーパーチャージャーは1対1の関係で良かった。しかし、今後北米にて多くの自動車メーカーがNACS方式を採用し、かつ今のスーパーチャージャーでは不足することから、他の急速充電器メーカーもNACS方式の急速充電器を製造するであろう。つまりn対nの関係になることを意味する。

充電時に、仕様書上はNACS規格を満足していても、充電できないなどのトラブルが発生することがある。このような時、多様なEVと急速充電の関係で最も大切なのは、相互接続性(Interoperability)である。これがうまく機能しないと信頼性を損なう。チャデモ規格では、チャデモ協議会が試験を実施し、各種急速充電器の認証を行ってきた。

今回のケースではn対nに対して、テスラが認証を行うとも考えにくいため、どうやって相互接続性(Interoperability)を担保するのか、その仕組みづくりが大切であろう。