09月

2024年9月26日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

BYDを研究すべし!

BYDの躍進が止まらない。2023年、BYDはBEVとPHEV合計で302万台を販売し、2024年は販売目標360万台に対し、販売好調のため400万台に上方修正している。400万台と言えば、2023年の日産自動車344万台を超え、ホンダ410万台レベルとなる。

振り返ると、2024年2月、BYDは「ガソリン車よりも安い電気自動車(電比油低)」というスローガンを掲げ、新エネルギー車の低価格戦略を発表した。例えば、2024年モデルにてPHEVモデル「秦 PLUS DM-i栄耀エディション」は7万9800元(約165万円)から、BEVモデル「秦 PLUS EV」は10万9800元(約230万円)からという具合である。

これに端を発し、中国にて一気に値下げ競争が激化した。テスラ始め他EVメーカーも、BYDに対抗するには値下げせざるを得ない。その結果、新エネルギー車の販売は、一気に上向きかけている。直近の2024年8月では、新エネルギー車販売110万台、対前年比30%増、新車販売比率は45%にまで高まっている。

筆者は以前にBYDの深セン本社を複数回訪問したことがある。その中で、1度、王伝福董事長と意見交換する機会があった。その時の印象は、夏場であったためか、開襟シャツにて出てきており、偉ぶらず、温和で、我々の質問に対しても丁寧に答えていただき、中国の有名な経営者の一端を垣間見た気がした。

しかし、そこはBYDの創業者である。多くの中国の戦略を参考にしているのではないだろうか。ここからは筆者の推論であるが、「孫子兵法」に次のような名文がある。「勝兵は先ず勝ちて、しかる後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて、しかる後に勝ちを求む」という。つまり、事前に十分準備し、勝利する態勢を整えてから戦う者が勝利を収め、戦いを始めてから慌てて勝機をつかもうとする者は敗北に追いやられるという意味である。

おそらく、王伝福氏は、今回の「電比油低」という価格破壊の革命的戦略を実施するに当たり、相当な準備をしてきたのではないだろうか。その上で、製造原価をどこまで下げることができるのか、また販売台数をどこまで伸ばせば、企業としての収益は維持できるかを考え、その絶妙なバランスの上での戦略であると推察する。他自動車メーカーがBYDの値下げ攻勢に対して、準備もなく単に追随するのであれば、あっという間に収益が悪化し、経営不振に陥るであろう。

なお、直近の中国メディアによれば、BYDの総従業員数は90万人を超え、技術研究開発部門も11万人を上回っているとのこと。世界展開を見据えて、人員規模を拡大し、準備に取り掛かっているようにもみえる。

筆者は、テスラよりも現実的な成長軸としてBYDが世界的にトップレベルに躍り出るとみており、日本の自動車産業にとっては、徹底した研究対象とすべきであろう。