11月

2016年11月16日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

覚えている方も多いかもしれないが、約1週間前の11月7日(月)、日経朝刊一面に「トヨタ、EV量産計画へ」との記事が掲載された。

一部の方からガセネタではとの声もあったが、私としては月曜日の日経朝刊一面ははめ込みが多いことから、これはガセネタではなく、仕組まれた記事と考えていた。

以前に、大きな記事は1週間程度寝かせておいてから考えるほうが良い、とアドバイスいただいたこともあり、今回公表した理由を考えてみたい。

まず、デメリットから考えると、これは燃料電池車(FCV)陣営にとどめを刺すおそれがある。これまで、次世代自動車はFCVであるとアナウンスしてきた先導役の自動車メーカーがEVの量産化に向けて開発を進めるとアナウンスすることで、FCVの充填インフラを支援していた業界が、今後力を入れなくなる恐れがでてくる。

理由として、EVの充電インフラは設置が容易であるが、FCVは設置費用が高額であること、各種申請などが煩雑で、設置までに長期間要することなど、不利な点が多い。これまで、2020年以降には上向くのではと何とか頑張ってきた業界であるが、この公表はかなりの冷や水となるのではないだろうか。

逆にそれらを考慮しても、今回公表に踏み切った理由はなんであろうか。
一言でいうと、「もはや、切羽詰まってきた!」ということであろう。
主に3つの理由があると思われる。

1つは、マツダ、富士重工への配慮。
両社とも、米国ZEV規制、特に2018MYからの新規制に対して、どう対応するのかが喫緊の課題となっている。類似の規制である中国NEV規制もある。これらに対して、両社は対応方針を示す必要性に迫られていた。しかし、両社が例えEVを量産すると言っても、単独ではなかなか現実味がない。つまり、基本技術をどうするか、誰がキープレイヤーとなって開発するかを明らかにする必要があった。

2つ目は、トヨタ系サプライヤーへの配慮。
トヨタは2016年11月8日、2017年3月期の連結決算を、売上高予想△8.5%減の26兆円、純利益予想は、1000億円上積みしたものの、△33%減の1兆5500億円になると公表した。頼みの米国販売が低迷しており、またHEVの成長が止まったことや、FCV販売も上手くいっていないことから、傘下のサプライヤーに対して、不安を打ち消し、今後の進む方向性を示す必要が出てきたのではないだろうか。

3つ目は、自動運転車への対応。
レスポンス性などを考えると、自動運転車はEVでなければ実現できないことは自明である。他社が自動運転とEVを組み合わせた商品展開を進める中、自動運転技術をいくら開発しても、乗せるクルマがなければ実用化には結びつかない。これら開発陣の葛藤を受けて、アナウンスに踏み切ったと考えるのが妥当であろう。

しかし、EVを量産するにはこれまでの財産(HEV用電池設備、モーター設備等)が活用できず、新たな巨額の設備投資に踏み切らなくてはならない。これは量産設備だけでなく、試験設備、そして何よりも技術陣の体制も同様である。

今後、社内外でも葛藤はあると思うが、巨艦が方向転換することにエールを送りたい。