ブログ

2023年5月22日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

ダイハツのポール側面衝突試験不正に思う

ダイハツが5月19日に発表した衝突安全に関する不正行為(ダイハツ・ロッキー、
トヨタ・ライズHEV車のポール側面衝突試験)に本当に驚かされた。

衝突試験は、地域・国によって多くの種別がある。前突試験、側突試験、ポール側突試験、後突頚部傷害保護試験、歩行者保護性能試験など多様である。

筆者もEV開発の前は内装設計を担当していたため、側突、特にポール側突試験は最も難しい衝突試験の一つであると認識していた。

国土交通省が定めるポール側突試験は、直径254mmの半球状の柱に、スピード32km/hにて、車体を75度に傾けて実施するものである。車両ダミー(MDB:移動台車)の側突試験に比べて、局所的に衝撃が加わることから、ボデー構造(サイドシル、ルーフ)、ドア内部の構造、サイドエアバッグ、天井のカーテンエアバッグなど、複雑な要素が絡み合う。

このため、設計段階からCAEを駆使して検討を行うとともに、試作車両などを用いた実車衝突試験では、社内基準(法規よりマージンを取った値)を満足することができるのか否か、設計・試験部門とも検討していく。

もし、今回説明のように、助手席の試験を実施し、運席の試験を省略して報告書を提出したのであれば、当時余程不都合なことが生じていたのではないかと推察してしまう。またこれは試験部門のみならず、設計部門、認証部門も知っていないと出来ないことであろう。

車両についていえば、助手席と運席はレイアウトが必ずしも同一でないこともあり、どちらかと言えば、ステアリングなどがある運席側が厳しい。

真因は判らないが、ダイハツは米国、欧州での販売からほぼ撤退しており、米国(NHTSA、IIHS)、欧州(Euro NCAP)など厳しい法規制に対して、実施する必要がなく、国内の衝突試験自体を軽んじていたようにも思えてならない。

今回の件は、単に部品不具合などのリコールと異なり、自動車会社の存続を揺るがすほど大きな案件となるのではないだろうか。事態の推移を見守りたい。

2023年4月17日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

欧州理事会のe-Fuel免責事項はガス抜きでは

欧州理事会は、2023年3月28日、2035年に内燃機関車の新車販売を禁止することで合意した。それに付随してe-Fuelも条件付きにて認めたことが話題となっている。

日本のメディアでは、2035年以降も、ガソリン車が販売継続可能となったとの報道も見られるが、筆者としては、これはかなりミスリードではないかと思える。

今回の発端は、欧州委員会、欧州議会、EU理事会の各官僚による長年の調整が終わり、政治的な承認となる欧州理事会(閣僚理事会)で終了する予定であったが、ドイツより2035年以降もe-Fuelを販売継続すべきであると、待ったがかかったことに端を発している。

この要請に対して、欧州理事会(閣僚理事会)は、免責事項として、2035年以降も
e-Fuelのみで走行する新車の販売を継続するための法的ルートを作ることを約束して決着をみた。

筆者から見るところ、議論の着地点は次の5つの要素から成り立っている。
・2035年に内燃機関の新車販売を禁止する法案に最終合意
・2035年以降もe-Fuelのみで走行する新車の販売を継続するための法的ルートを
作ることを約束
・e-Fuel車は、ガソリンやディーゼルを充填してもエンジンがかからないようにする
・e-Fuelでしか走れない車のための新しいEU車両カテゴリーを作る
・バイオ燃料は対象外とする

そして、今回の合意では、e-Fuelの定義として、再生可能なエネルギー源で生成した水素と、大気から直接回収した二酸化炭素(CO2)を混合することで作り出される合成燃料のみとしている。

ということは、通常、産業プロセス(工場)から回収した二酸化炭素(CO2)を混合することも考えられるが、今回は排除されている。

もともと、e-fuelなど合成燃料を使用した内燃機関車の是非は、2026年に再評価するとしていた。しかし、ドイツの横やりが入ったことから、欧州理事会(閣僚理事会)ではしぶしぶ認めたのであろう。

このため、e-Fuel使用に関しては、法的ルートを作ることを約束しているものの、実現には高いハードルを設け、そう簡単には認めないぞとの思いがあるのではないだろうか。

今後も議論が続くと予想されるが、e-Fuelは課題が多い。使用する水素の純度問題、大気から直接回収した二酸化炭素(CO2)の厳密さ、e-Fuelを製造する際に多くのエネルギーを用いることから生じるLCA問題など、問題山積である。

筆者は、e-Fuelの免責事項は、ドイツ提案に対して、形だけは認めるものの、いわゆるガス抜きでであり、実際はほとんど期待できないように思えてならない。

2023年3月20日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 「バッテリーパスポート」にて日本側対応に懸念

欧州にて実施しようとしている「バッテリーパスポート」に注目が集まっている。

ご存じない方のために補足すると、欧州を中心とする官民アライアンスである「グローバル・バッテリー・アライアンス(GBA)」が主催・推進しており、バッテリーに関する材料原産地、材料生産者、セル生産者、バッテリー重量、製造時の炭素排出量など、多くの指標をバッテリー毎に明記して、デジタルプラットホームとして管理しようとする動きである。

このアライアンスには、欧州自動車メーカーのみならず、テスラ、寧徳時代新能源科技(CATL)など現在120以上の企業・団体が加わっている。しかし、なぜか日系自動車メーカーや日系電池メーカーは加わっていない。

これまでも、欧州では私的なコンソーシアムや小規模のアライアンスから、次第に格上げし、法案の骨子が固まった頃には、修正しようとしても時既に遅しとなったことが多い。残念ながら、日系企業の場合、素案の段階では時期尚早として「待て」をしてしまうことがある。

近年、欧州発の規制は、あっという間に世界規格となることが多く、今回に関しても、事前の段階から参画していく姿勢が大切ではないだろうか。

GBA members:
https://www.globalbattery.org/about/members/

2023年2月27日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

トヨタが2026年に新プラットホームで新型BEVに落胆

最近、トヨタの次期社長である佐藤恒治氏は、事業改革構想を発表し、2026年に新プラットホームでレクサスの新型BEV(電気自動車)を商品化すると公表している。

しかし、今年はまだ始まったばかりである。3年以上先の世界では、テスラや中国企業であれば、今から企画しても、全くの新型BEVを2026年に発売可能であろう。たいへん申し訳ないが、これで世界で戦っていけるのであろうかと心配してしまう。

折しも、2022年に於ける「世界のBEV+PHEVブランド別販売台数TOP25」が公表されている。第1位は180万台以上を販売したBYD、第2位は130万台以上販売したテスラ、第3位は90万台のVW Groupと続く。しかし、日系企業では、第10位にルノー・日産・三菱連合、第23位にトヨタとなり、他の日系企業は圏外である。

筆者の勝手な予測かもしれないが、中国、米国、欧州の新序列は今後10年間も同様な形で推移するのではないかと思ってしまう。つまり、なかなか日系企業は上位に食い込めないであろう。

その最大の理由は、e-Mobility新時代に対して危機感が乏しいこと、スピードに対する希薄さ、コロナ終了で利益が回復していることへの安堵感ではないだろうか。

世界の主要な自動車業界が既に変わり始めており、まだ大丈夫と思っている日系企業はどうしても出遅れてしまっていると思えてならない。
https://www.ev-volumes.com/

2023年1月23日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 ノルウェーのEV販売比率に驚愕!

2023年の年明けて、最も驚いたニュースの一つがノルウェーに関することである。

ノルウェー道路連盟によれば、2022年の同国の乗用車販売に占める電気自動車(BEV)の販売比率が79.3%に達したとのこと。これは2021年の64.5%を大幅に上回る記録的な数字である。あくまでBEVのみであり、PHEVは含まれていない。

ノルウェーはもともと、BEVには熱心であったが、それほど販売比率が高かった訳ではない。筆者がノルウェーを訪れた約10年前には約3%レベルであった。それから僅か10年あまりで驚異的な飛躍を遂げたことになる。

いろいろな分析があるが、カギは主に2つとされている。
一つは、政府が電動化への重要なインセンティブを導入したこと。BEV普及を後押しするため、通行料の無料化、駐車場、免税などのインセンティブを導入した。

もう一つは、充電インフラの充実である。国は大規模な充電ネットワークを展開し、南北1,700 キロメートルにわたって5600台を超える急速充電器を設置した。人口540万人に対して驚くべき数値である。人々の意識改革も加わったであろう。

ひるがえって、日本では2022年のBEV新車販売比率は1.7%に過ぎない。軽自動車EVも登場して健闘したが、まだまだである。しかし、日本でも、意識改革や有効な政策を打つことで、変革が起こる可能性もあるのではないだろうか。

2022年12月12日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

海外から熱視線!

12月5日スウェーデン大使館主催の「スウェーデン・日本サステナビリティサミット2022」にパネリストとして参加した。その時感じたことを述べてみたい。

この会合は、スウェーデン大使館が主催し、政府高官や産業界の関係者を招いて、エネルギー、モビリティ、サーキュラリティの3つの分野に焦点を当て、ディスカッションを行ったものである。

モビリティ分野では、なぜ日本がEV化に慎重で進まないのかと議論になった。2022年の新車販売では、欧州は電気自動車やプラグインハイブリッド車が約20%前後で推移している。しかし、日本では軽自動車のEVが発売され健闘しているものの、その販売比率は約4%前後に留まっている。

このため、海外からみれば、日本はEV化に遅れており、内燃機関車に固執していると思われているようだ。小職からは、10年前に世界に先駆けて三菱・日産から電気自動車を発売したが、その後、本格的に取り組まなかったことで、時流から乗り遅れてしまったこと。充電インフラに対しても、文化的な違いもあり、取り組みが遅れたことなどを説明した。

それに対し理解を示すものの、日本はなぜ勇気をもってチャレンジしないのかと疑問の声もあった。日本にいると、日本の論理だけで過ごしてしまいがちである。しかし、今回のように海外から改めて指摘を受け、熱視線を浴びることで、やはり自ら変革できるようにならなければと、ひしひし思ったものである。

2022年11月9日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

米国「インフレ抑制法」は生煮えだったのか

それにしても、バイデン大統領が2022年8月16日に署名したた「インフレ抑制法」は何だったんだろうと思ってしまう。

本来なら米国の法律であることから、海外からはとやかく言うことはあまりないが、今回は海外から言いたい放題のようだ。

欧州連合は、控除要件が「最終組み立ては北米で行われること」と規定されていることに対し、欧州から輸出する電気自動車や電池のほか、関連機器はカナダとメキシコの製品と同等に扱うよう要請を出した。これでは、米国の法律として意味をなさなくなる。

また、韓国政府は、インフレ抑制法は、外国のEVメーカーにマイナス影響を与え、韓米自由貿易協定(FTA)や世界貿易機関(WTO)などの国際通商ルールにも違反する恐れがあると強調した。その結果、韓国製EVにも同一の税額控除を適用したり、税額控除の施行に3年の猶予期間を設けることなどを要請している。

珍しく、日本も負けじと「1.北米地域以外からの輸入完成車が税控除の適用除外となったこと、2.バッテリー材料の調達・加工要件が米国または米国の FTA締結国に狭く限定されていること、3.バッテリー部品の北米での製造・組み立て要件が導入されたこと」に懸念を示し、日本メーカーのEVも優遇を受けられるよう意見書を提出している。

このように、ここまで海外からボコボコに叩かれる法案は珍しいのではないだろうか。やはり、突貫工事で作成した法案のため、NHTSAやCARBのように細部を詰めて出てきた法案とはとても思えない。

ある意味、選挙対策としての「インフレ抑制」法案だったのかもしれないが、逆にあまりにアメリカファーストを謳うことで、関係国との協力関係にひびが入らないか、気になるところである。

性急な法案は周辺国に混乱を招くという、良い例のように思えてならない。

2022年10月24日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

政府リスキリング認定対象分野があまりにも狭いのでは

岸田政権は先般、成長産業への労働移動を促す「リスキリング支援」に今後5年間で1兆円を投じる方針を表明した。

これは、日本で出遅れている産業に対し、新たな知識を身に付けることで、労働生産性を向上させ、既存の人材を再活用する方策であろう。

では、どのような分野が対象となるのであろうかと、政府HPを検索してみると、「経済産業政策局 産業人材課」が窓口となっており、その中に、「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」が設定されている。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/reskillprograms/index.html

それによれば、リスキリング認定対象分野は次の3つである。また注記※にあるように1および2項の基礎・初級のITレベルは除く条件となっている。

1.AI、IoT、データサイエンス、クラウド
(デザイン思考、アジャイル開発等の新たな開発手法との組み合わせを含む)
2.高度なセキュリティやネットワーク
3.IT利活用(自動車モデルベース開発、自動運転、生産システムデジタル設計)
※1、2について、基礎・初級のITスキルは除きます。

筆者の感覚では、これは「リスキリング講座」というより、「プロフェッショナル
育成講座」のように思えてしまう。

言うまでもなく、自動車産業は日本の製造業の重要な柱である。喫緊の課題は、ガソリン車・ディーゼル車の知見・経験が主流であった自動車産業従事者を、新エネルギー車(電気自動車、燃料電池車、プラグインハイブリッド車)および開発に必要となるソフトウエア技術者を育成することであろう。

海外では、大手部品メーカーのボッシュが、世界40万人の社員に対して、今後10年間で2800億円を投じて、内燃機関技術者から電気自動車、ソフトウェア技術者に生まれ変わる計画を立てている。

そう考えると、日本のリスキリング政策は、プロフェッショナル育成のみならず、もっと大きな投網が必要のように思えてならない。

2022年9月26日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

中国でなぜかPHEV販売急増、これは必然なのだろうか

中国にてPHEVの販売が急増しているとのこと。思わず、えっ、と思ってしまう。というのは中国では圧倒的にBEV販売が多く、PHEVを手掛ける自動車メーカーはBYDなど少なかったからである。

しかし、9月25日付け報道によれば、8月の新車販売は、PHEVが対前年比で2.6倍増の14万4千台、1~8月の累計は2.7倍増の82万台とか。

もちろん、BEV販売は依然として多く、8月が対前年比93%増の52万台、8月までの累計では、対前年比2倍の304万台とのこと。

既にPHEVはBEVに対する販売比率27%まで迫ってきている。なぜこれほどPHEVが伸びたのかという問いに対して、中国関係者は、「中国のPHEV技術が先行者と肩を並べるまでに向上したこと」「PHEVに関する特許出願件数が全世界の約4割を占め、日本、ドイツを上回ったこと」を理由として挙げている。

また別の要因として、リチウムイオン電池などの原材料価格が高騰し、その結果、BEV価格が高価となり、手を出しにくくなってきたことも遠因であるだろう。

PHEVは日本やドイツの専売特許と思ってきたが、ここにきて中国も参入し、「三つ巴」の様相となってきた。いよいよ戦国時代の始まりであろうか。

2022年8月22日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

最近笑ったり、驚いた話題を2つ

イーロン・マスクがまたお茶目なことを8月17日Twitterに投稿した。”Also, I’m buying Manchester United ur welcome”。英国プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドを買おうとのこと。クリスティアーノ・ロナウドが退団意向との噂があり、ここが底値と思ったのであろうか。

その4時間後、「これはTwitterで長く続くジョークだ。どのスポーツチームも買収していない」「とはいえ、もしそうするならマンUだろう。子供の頃から私のお気に入りのチームだ」と投稿。

マンU買収額は2800億円とも言われており、イーロンなら買えるかもしれないと、ニュース速報が流れたことに、思わず吹いてしまった。

もう一つが、中国ギガ上海にて8月15日、製造開始から3年で生産累計100万台を達成したことである。これには心底驚かされた。なぜかと言えば、電気自動車は自動車メーカーが生産したいと思っても、需要とそれに対応する電池供給が続かなければ、台数は大幅に増えないのである。

ちなみにアイミーブは全生産台数で約24000台、日産リーフでもこれまで約50万台強である。それを考えると、いかにテスラの販売台数の勢いがすごいかが判る。多くの自動車メーカーもEV化を推進しているが、このスピード感について行けないのではないだろうか。最近、世界と日本のスピード感が違うように思えてならない。

2022年7月25日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 BYDの日本進出は黒船来襲に匹敵か

7月21日、BYDが日本で今後3車種のEVを販売するとの発表を聞いて、いよいよ来るべきものがきたと感じた。

BYDの強みは、これまで大量のEV生産・販売の実績、社内に豊富なソフトウェアエンジニアを抱えること、自社でリチウムイオン電池を生産できることにある。

ある意味、これはテスラにも当てはまり、王伝福氏、イーロン・マスク氏とカリスマ経営者が率いているところも同じであろう。

なぜ日本進出なのかとの問いに対して、私は3つを挙げたい。

1.日本市場のEV比率がまだ極めて低いこと
 国別でみると、日本市場は縮小したとはいえ、2021年の新車販売でも、中国、米国についで第3位(約445万台)に位置する。しかし、日本では、EVのシェアは0.5%に過ぎず、PHEVを合わせても1%である。ということは、これほど低いのであれば、これから伸びる可能性があると考えたのであろう。

2.EVバスでの経験が生きた
 BYDが日本にEVバスを持ち込んで以来、観光業者は価格が安く、世界で実績のあるBYDのEVバスを数多く導入してきた。BYDは、中国製車両が品質で厳しい日本で受け入れられるのかどうか慎重に検討してきたであろう。その結果、多くの導入実績から、例え中国製であっても、EVも日本市場に受け入れられると考えたのではないか。

 しかも、今回はテスラのようにオンラインではなく、約100箇所の販売代理店を構築しサービスを提供するとのこと。日本市場の顧客の実態にあった対面販売を採用し、橋頭保ではなく本腰を入れた戦略なのであろう。

3.日本の部品メーカーへのアプローチ
 もう一つ隠れた目的として、日本の部品メーカーへの関係深度があると思われる。BYDといえども、IGBTなど多くのパワエレ部品は日本企業に頼っている。ここでEVバスに続いてEV乗用車に進出することで、不足気味である半導体に関して、これまで以上に日系部品メーカーと繋がりを深めることができる、と考えたのではないだろうか。

 ひるがえって、日系自動車メーカーは、BYDの3つの強みに対する対応力が乏しい。BYDの正式価格はまだ公表されていないが、商品力は十分あり、リチウムイオン電池が自社生産であることから、意欲的な価格で攻め込んでくると考えられる。まさに、黒船来襲に匹敵するようなインパクトをもたらすのではないだろうか。

<ビーワイディージャパン株式会社のプレスリリース>
https://byd.co.jp/news/2022_0721_94.html

P.S.
乗用車の販売ならびに関連サービスを提供する100%出資子会社として、「BYD Auto Japan株式会社」の設立が同時に発表された。代表取締役社長に東福寺 厚樹氏が就任とのこと。東福寺さんとは三菱自動車時代に一緒に仕事をしたことがあり、この発表に驚かされた。

2022年6月27日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 自動車産業の常識 vs.テスラの常識

最近話題になっていることの一つに、テスラがCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)で2021年度に初めてマイナスになったことが報じられた。

CCCとは、商品や原材料を仕入れてから、生産・販売して代金が手元に入るまでの平均期間を示したもので、テスラは2021年度に-15日になったとのこと。

自動車産業の平均CCCは日本で約55日、米国でもほぼ同様、中国は約75日とやや長めである。

私自身もこれまで、自動車産業は、材料手配から、生産・販売までを考えると、かなりの日数が必要なのは当たり前と思っていたことから、テスラがCCCで-15日になったことに驚かされた。

過去を紐解いてみると、テスラは2014~2015年にCCCで54日であり、その後、努力して低下させてきたようだ。

他社で強烈な企業はアップルであり、CCCは-74日とのこと。1996年は+70日であったが、スティーブ・ジョブズやティム・クックがCCC低減に向けて指示を出し、年々低下させてきたようだ。-74日ということは、仕入れ先に支払うはるか前に販売代金が入金されていることを意味する。

今まで自動車産業はCCCが長いことが常識であり、またCCCをマイナスにするよう目標を打ち出したことも聞いたことがなかった。

しかし、世界の優良企業はこれも目標を立てて取り組んできた。商品開発のみならず、このような別の指標に対しても行動してきた結果が、大きな差異となったのであろうか。

2022年5月25日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

自動車の再定義の時代が迫る

先般、日産自動車と三菱自動車が、共同開発した軽自動車タイプの電気自動車を今年夏に発売することを発表しました。

私が担当していたi-MiEVの発売が2009年ですから、12年目にしてようやく次期車の販売です。嬉しいと同時に感慨深いものがあります。クルマでいえば、1世代6~7年とすると、2世代が経過して発売されることになります。ここまで来るにはたいへんな努力があったであろうし、関係者の努力に敬意を表したいと思います。

ところで、日本ではまだHEVかEVかという話題がありますが、どうも海外では自動車の再定義が必要な時期が近づいているように思えます。

アイティメディアのコラムにも書きましたが、「ステアリングのない自動運転車」がまもなく出現です。このようなことを言うと、日本ではあり得ない、自動車として考えられないという声が必ず出ます。では、次の2つのビデオを見てから再度考えてみてください。

好むと好まざるとにかかわらず、これは夢物語でしょうか、それとも既に起こった未来なのでしょうか。

<ご参考>
https://www.youtube.com/watch?v=7GVL9Na1_9Q

https://www.youtube.com/watch?v=IxR_hvJ9Ngg

2022年4月11日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

Giga Texasにみるテスラのタイムマネジメント

米国時間2022年4月7日夜、テスラは「Cyber Rodeo at Giga Texas」と銘打ってGiga Texas工場のオープニングセレモニーを開催しました。

ちょうどライブ配信されていたので観ていたのですが、そこで感じたのは、工場建設もしかり、このような大規模なイベントも含めて、「タイムマネジメント」が徹底していると思ったものです。

ご存じのとおり、テスラはYoutubeにて、Giga Shanghai、Giga Berlin、Giga Texasを工場建設開始から完成、現在の進行状況までほぼ毎日ドローンにて公開しています。

私も毎日チェックしているのですが、今回のイベント準備が始まったのは確か3日前の4月4日頃でした。それまで何もなかったにもかかわらず、どれくらい前から準備してきたのか分かりませんが、あっという間にCyber Rodeoの準備が整ってしまいました。

驚かされたのは、外側だけでなく、工場内のディスプレイや生産設備にまでショーアップが施され、当日の映像などと連動していたことです。

日本の新工場では、まだ完全に完成していない段階でのお披露目など、想像できませんが、テスラの方々は楽しんで準備しているように思えました。それが証拠に、Giga Berlinではスーツ姿で硬い表情だったイーロンも、今回はいつものお茶目な姿に戻っていました。

孔子の格言「努力する者は楽しむ者に勝てない」を思い出してしまった次第です。

<ご参考>

Flying Through Giga Berlin
https://www.youtube.com/watch?v=7-4yOx1CnXE

Cyber Rodeo at Giga Texas
https://www.youtube.com/watch?v=fiwUE_2JhvY

2022年3月14日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

ついにNHTSAより自動運転車に関する法規案がリリース

 米国では多くの自動車メーカー(Waymo、Cruise、Argo AI、Tesla)などが公道にて自動運転車の走行を行っているものの、自動運転車に関する明確な法規はこれまで存在しませんでした。

 しかし、このたび米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)が2022年3月10日、初めて自動運転車に関する連邦自動車安全基準(FMVSS)草案を設定しました。

 この報道に対して驚くと同時に、その内容に着目しました。草案では155ページの法規となっており、ざっとみただけですが、NHTSAがこの自動運転車に関する苦悩が感じられます。

 冒頭、NHTSAは、自動運転システム搭載車(ADS:Automated Driving System)の開発および配備の可能性については、不確実性が存在し続けるということは認識している。しかし、NHTSAはADSの新しい設計を見越して、この時期に措置を確定させることが適切であると述べています。

 またステアリングなどもないADSが存在することを想定し、”運転席”の定義として、「手動で操作する運転装置にすぐにアクセスできる指定された座席位置を示す」と、従来の考えを根本的に変えています。

 まだまだ驚くことが満載ですが、一つこのような基準ができることによって、米国では自動運転車の実現が近づいていくのではないかと予想します。

 おそらく、NHTSA法規を参考にしながら、欧州、中国なども自動運転車に関する法規が作成されていくのではないでしょうか。

https://jp.techcrunch.com/2022/03/11/2022-03-10-nhtsa-first-autonomous-vehicle-occupant-safety-standards/

2022年2月9日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

EVやインフラを学びたい方に朗報です

 昨今、EVや充電インフラがブームになるにつれ、正しい基礎知識を多くの方に身につけていただくことが、日本の将来にとって有益ではと思っておりました。そのため、EVや充電インフラの基礎の基礎を学ぶことのできるオンデマンド教育講座を何とか開催できないかと企画を温めてまいりました。

 本件の実現に向けて、日頃コラムを寄稿しているアイティメディアの方々と、長い期間、詳細な調整を行ってきた結果、日本を代表する方々からも基調講演の快諾をいただき、「EVアカデミー2022」として告知をリリースする運びとなりました。

 当該オンデマンドセミナーは有料となりますが、自動車関連企業にお勤めの方、また今後EVや充電インフラに参入を考えている企業の方にとっては、基礎の基礎を学ぶことのできる、またとない機会ではないかと思います。

 さらには、この4月から新入社員となる方にとっても、このような基礎知識を身につけておくことは将来役に立つのではと思っております。企業の責任者の方々、基礎を学びたいと考えておられる方、周りの方々にご紹介していただけると幸いです。

https://monoist.itmedia.co.jp/mn/special/mo220190/index.html

2022年1月31日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

幸運の女神には前髪しかない

 この格言は、ギリシア詩集から来ているようだ。意味は、幸運(チャンス)の女神は前髪しかないため通り過ぎた後、あわてて捕まえようとしても後ろ髪がなく掴む場所がないとのこと。

 髪があまりない私が言っても説得力はないが、せっかくのチャンスが来ても、じっくりと考えていると、チャンスを掴むことはできないというは確かな気がする。

 さて、今年は1908年にT型フォードが誕生して以来、ちょうど114年目。まさに時代が「自動車」から「モビリティ」へと大変革が起きようとしている。これはリスクでもあり、またチャンスでもある。

 おっと、幸運の女神は、今、目の前を通り過ぎていこうとしている。

2021年12月20日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 社会インフラは2つが限界

急速充電の協議会であるCHAdeMO協議会が発足した2010年当時、関係者でよく「社会インフラは2つが限界ではないか」と話していた。

どういうことかと言えば、既存のガソリンスタンドがあり、CHAdeMO協議会では、電気自動車用の急速充電スタンド設置を積極的に進めていた。但し、狭い日本ではこのような社会インフラは2つが限界ではないかと考えていたのである。

その後、燃料電池車用の水素ステーション設立の話も持ち上がってきた。これでは、ガソリンスタンド、急速充電スタンド、水素ステーションと3つが存在し、将来はたしてどちらが生き残れるのかと懸念していた。

現在は、関係者の努力もあり、国内の急速充電器基は8000基に達している。先週、トヨタが2030年にEVのグローバル販売350万台を目指すと公表した際、「急速充電器も2025年ぐらいを目がけて全国の販売店に設置する」と言及している。

トヨタは国内の販売店舗が約6000店あり、これら全ての販売店に急速充電器を設置するとなると、2025年にはこれまでの設置数と合わせて14000基に達する。

一方、水素ステーションは整備中も含めて現在170カ所に過ぎない。今後の方向性として、ガソリンスタンドが減少し、急速充電スタンド1極になるのか。はたまた中国のように、電池交換スタンドがガソリンスタンドに次第に取って代わっていくのか、やはり社会インフラは2つが限界かなと思ってしまう。

2021年11月15日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

設計にも美しさが必要では

 先週、私共が主催する「一般社団法人自動車100年塾」にて、VW ID.3の分解・視察ツアーを開催した。緊急事態宣言が解除されたこともあり、昨年より多くの方々にご参加いただき感謝申し上げたい。

 さて、筆者の勝手な持論であるが、かねがね優れた商品には設計も美しさが必要であると思っている。クルマでいえば、エクステリア/インテリアのみならず、パワートレインなどの設計に対してもである。

 今回のVW ID.3はどうだろうかと視察したが、結論から言えば、それとはほど遠いものであった。バッテリーパックのレイアウトや、インバータなどパワエレ部品のレイアウトおよび内部構造など、大きく、重く、込み入っていて、思わずう~んと唸ってしまったのである。言葉は悪いが、設計的には「まだまだこなれていない」なと。

 昨年のテスラモデル3視察では、洗練された設計を見てきただけに、余計にそう感じたのかもしれない。ID.3はVWが本格的にEVシリーズとして開発したクルマであり、多くの制約の中で、エンジン屋さんが悪戦苦闘しながら、なんとかEVを設計したのではないかと想像した。

 しかし、VWの実力はこんなものではなく、次のID.4は大きく向上していると思われる。VWがいかにEVメーカーとして脱皮していくのか、楽しみに待ちたいと思う。

2021年10月25日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

EV用電池メーカーの戦略的育成が急務

 先週から、海外でのEVに関するニュースが相次いでいる。ロイターは、アップルがEV電池調達で、CATLおよびBYDとの協議が不調に終わったと伝えた。筆者の記憶でも半年以上前からの協議ではなかったかと思われる。代替えとしてパナソニックの名前も挙がっているとか。

 また、台湾の鴻海(ホンハイ)は、EV試作車3種類を公開した。裕隆汽車製造(ユーロン)と共同で設立した新会社「鴻華先進科技」が車両開発し、MIHと呼ばれる1000社を超えるサプライヤーと協力して開発を進めるとのこと。

 しかしである。どんな大きなメーカーや壮大なビジネス構想であっても、EV用電池供給先が定まらなければ開発・生産が出来ない。車両開発の前に、電池メーカーの選定と仕様決定、それに伴う投資判断が先となる。これらから推測するに、アップル、鴻海ともまともなEVを作るには相当の時間を要するのではないだろうか。

 実は日本も同様である。2020年のEV/PHEVの販売台数は、新車販売台数のわずか0.6%である。これを大幅に引き上げようとすると、廉価で大量にEV用リチウムイオン電池を開発・生産できることが必須となる。

 残念ながら、現在の日本には、パナソニックも含めて、そこまで電池を供給できるメーカーが存在しない。政府はグリーン成長戦略の一環として、「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」ことを掲げている。その実現のためには、国内のEV用電池メーカーの戦略的育成、もしくは合従連衡が喫緊の課題のように思われる。

2021年9月21日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 EVバッテリー交換方式が一つのジャンルとして形成

 最近、普通充電器や急速充電などの充電インフラについてよく聞かれる。しかし、それとは別にEVバッテリー交換方式も一部では普及拡大している。昨年末、中国にてNIOやEVトラックにて採用が多くなっているとの情報があったが、改めて調べてみると、乗用車ではNIOのみならず、大手の北汽新能源なども採用している。

 さらに採用が急増しているのがEVトラックである。大型バッテリー(2mx2mx1m)を運転席と助手席の背面に設置し、クレーンで容易に交換できる構造としている。これまでは、ルートが決まっているEVトラック(例えば、鉱石が産出する山間部と港など)に対して、バッテリー交換方式が採用されてきた。最近では、その採用が北汽福田、上汽依維柯紅岩、華菱などトラックメーカー5~6社に拡大している。既に実績は1万台を超えているようだ。

 理由として、まず第一に車両価格の安さが挙げられる。バッテリーレス価格で販売するため、大型バッテリー搭載車両と比較すると価格差が大きい。トラック事業者はバッテリー交換費用のみを支払えば済むこととなる。

 また、EVトラック用のバッテリーは急速充電でも2~3時間と長い時間を要するが、バッテリー交換方式はわずか5分程度で可能となる。このため、EVトラックが走行するルートに、バッテリー交換ステーションを2~3カ所設置するだけで対応可能である。これは超急速充電規格ChaoJiにとっても脅威であろう。

 そして、バッテリー交換方式を可能にしているのが、電池を供給する世界最大の電池メーカーであるCATLの存在があるようだ。CATLがトラックメーカーを集め、バッテリーサイズ、取り付け方法など、EVバッテリー交換に必要な要件を標準化して進めたとのこと。

 今後、EVトラックが全てバッテリー交換方式となることはないが、中国のようにルートが決まったところを、ほぼ毎日走行するトラックなどは採用が増加し、バッテリー交換方式が一つのジャンルとして形成していくと思われる。

 残念ながら、日本にはそのような電池メーカーもなく、同じルートを走るトラックも少ないことから、実現性は乏しい。

2021年8月16日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

デジャヴな米国自動車業界

現在、米国の自動車メーカー、ディーラーが空前の活況を呈しているとのこと。発端は半導体不足である。携帯やゲーム機器などに限らず、汎用品の多い自動車業界にも半導体不足の影響が及び、減産を余儀なくされている。これは日系自動車メーカーも同様である。

それにともない、販売可能なクルマが一気に少なくなってきた。いわゆる玉不足である。こうなると、日本とは商慣行が異なるためか、売り手市場となり、自動車メーカーはこれまで支払っていた値引きのためのインセンティブを廃止し、ディーラーは値引きではなく、通常価格にエクストラ料金を上乗せして販売し始めた。

いわゆる自動車メーカー、ディーラー丸儲けの構造である。以前にも、好評なクルマではこのような現象が幾度かあったが、今回はほぼ全般に及んでいることに違いがある。

しかし、ちょっと待って欲しい。米国自動車業界は2016年の1755万台をピークにここ5~6年は長期低落傾向が続き、自動車メーカー、ディーラーとも苦しんできた。これは人口が微増しているにも係わらず、ライドシェアなどを利用し、自動車を購入する人が減ったことなども影響していると思われれる。

今回の祭り(半導体不足)の後は、高値で買ったクルマと、中古車価格の落差などギャップに苦しむのではないだろうか。どこでも、祭りの後は寂しさがともなうが、はたして米国自動車業界はどうであろうか。

2021年7月19日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

織り込み済みのメーカーとサプライズのメーカー

欧州委員会は7月14日、ガソリン車など内燃機関の新車販売について、2035年に禁止する包括案を公表した。

これに対して驚かれた方も多いと思う。また欧州自動車工業会は「特定の技術を禁止することは合理的でない」と表明し反発している。

しかし、筆者から見ると、欧州委員会は、法案提出権を持つ実質の行政執行機関であり、このような重要法案に対して、事前に水面下で欧州連合理事会や、各国の市民代表である欧州議会に対して根回しをし、ほぼ法案通過の見込みがついたこと、また包括案の準備が整ったことから、公表に踏み切ったとみることが妥当ではないだろうか。

つまり欧州委員会は数か月前から事前交渉していたのであり、欧州自動車工業会はガソリン車業界に配慮して反発のポーズをみせているものの、VWなど大手自動車メーカーに表立った動きはない。本案は既に織り込み済みなのである。

ひるがえって、日系自動車メーカーはニュースに驚き、戦略の見直しを迫られている。欧州環境規制は、環境への配慮の面と、地域への戦略的な産業振興という面もある。包括案にて規制の前倒し競争は終止符が打たれ、一気にEV化が加速していくと思われる。

2021年6月28日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 Tesla『シルクロード』スーパーチャージャー・ルート

最近驚いたことの一つに、Teslaが構築した『シルクロード』スーパーチャージャー・ルートがある。

これは、5000kmにおよぶシルクロードに、27か所のスーパーチャージャーを設置し、移動可能にしたとのこと。

歴史的ランドマークであるシルクロードに、中国でもなく、ドイツでもなく、米国の自動車メーカーが最初に設置したことで、その構想力や実行力に驚かされた。

計画ではこれに留まらず、最終的には上海からロンドンまでスーパーチャージャーを繋ぎ、『マルコポーロ』スーパーチャージャー・ルートを完成させるとのこと。

1200年代後半、マルコポーロが24年かけて旅をし、「東方見聞録」を完成させた道を、今度は現代人がクルマ(EV)で旅することができるのであろうか。なんとも夢のある話である。

Tesla China silk road PV
https://www.youtube.com/watch?v=A8UZhpifmfc

2021年5月17日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 街作りやプラント作りにはプロセス開示も大切では

インターネットの発達により、COVID-19環境下でも、海外の街作りやプラント建設状況が公開されており、日本に於いても見ることができる事例が多くなってきました。

例えば、2018年末に訪問した北京南西に位置する新都市の雄安新区では、当時は地域全体の計画を示す展示場しかありませんでしたが、現在では巨大な雄安駅や、無数のオフィス・住居ビルが次々と建設されています。

また、プラントでは、テスラの独ギガベルリンや、米国ギガオースティンなどもリアルタイムではありませんが、かなりの頻度で状況公開しています。

ということは、これらの街作りやプラント建設は、単に進捗状況を知らせるだけでなく、投資家や、今後ここで働くことになる多数の人々にイメージをもってもらうことも目的としているのではないでしょうか。また言うまでもなくファンづくりの意味もあります。

ひるがえって、日本では何か新しい街づくりやプラント建設があったとしても、完成まで公開することはほとんどありません。静岡に建設中のトヨタWoven Cityなども同様です。

ここ数年、日本が他に後れを取ってきていることと、このように情報公開をためらい、殻に閉じこもっている考え方が影響しているように思えてなりません。

ご参考に、代表的な事例を2つ紹介します。

雄安新区:
https://www.youtube.com/watch?v=qqfoa98yQN4&t=276s

Tesla Giga Berlin:
https://www.youtube.com/watch?v=dM3C1Ay7qzs

2021年4月21日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

欧州発によるPHEVの終わりの始まりか

 実は、4月17日ロイターの報道に驚かされました。グリーンファイナンスに関するEU規則草案にて、2025年以降メーカーがPHEVを「サステナブル投資」に分類することを禁じるため、投資意欲を減退させる可能性があると報じたものです。

 まだ草案段階にも係わらず、これを報道することに驚かされるとともに、もし実現するとPHEVにとっては致命的になると思ったからです。

 欧州自動車メーカーは反発しているものの、2028年までの欧州製造計画では、EVが86車種製造される予定であるのに対し、PHEVはわずか28車種に減っているとのこと。現在、販売比率が50:50であることを考えれば、欧州自動車メーカーは草案を見通して、既に軸足をPHEVからEVに移しているようにも見えます。

 思い返せば、昨年9月に米加州のニューサム知事が、2035年に州内で販売される新型車は「ゼロエミッション車」を義務づけると発表した時、これで多くのガソリンスタンドが廃業となることから、結果的にPHEVも減るのではと思いました。

 しかし、それは米国の話であり、欧州ではまだ大丈夫との思いがあったのですが、まさかCO2規制やLCAではなく、サステナブル投資にてPHEVが規制の対象になるとは予想もしませんでした。まさに、欧州発によるPHEVの終わりの始まりなのでしょうか。

 欧州の動きを受けて、中国はもともとPHEV比率が少ないことから、NEVのPHEVクレジットを下げるなど、PHEVの価値(ポジション)を下げるかもしれません。

 日本では、これからPHEVだと思っている自動車メーカーもあると思いますが、世界は想像以上のスピードで動きつつあり、必死にくらいついていかないと生き残れないような気がします。

2021年3月22日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

米国のEVに対する新政策

 EVに関する報道が多いので、日頃それほど驚かないが、先日、米国上院議員で院内総務を務めるチャック・シューマー氏が、メディアのインタビューで明らかにしたことに驚かされたので、少し紹介したい。

 骨子は、バイデン政権にて、エンジンからバッテリーへの動力源の転換を目的とした「Cash for Clunkers 2.0」が実施されるかもしれないとのこと。”Clunkers”とはとはポンコツ車を意味するもので、2009年には既に
「Cash for Clunkers」(燃費の悪い旧式車から低燃費車への買替補助制度)が行われた実績を持つ。

 大きな柱は以下3つのようだ。
・EVの購入者に現在適用されている税控除額は7500ドル(約81万6000円)を上回る。
・内燃エンジンの製造を段階的に取りやめ、EVを生産するために工場や施設を
 改修する企業に、170億ドル(約1兆8500億円)を支給する案を盛り込む。
・充電インフラに450億ドル(約4兆9000億円)を投資する。

 まだ未確定のためか、それほど大きな記事ではなかったものの、上院議員で院内総務を務めるシューマー氏が言い始めることで現実味を持つ。トランプ政権とは異なり、一気にEV化を推し進めようとする政権としての意気込みであろうか。それにしても、掛け声だけの日本はどうするのだろうか。

2021年2月15日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

アップルカーの条件

 アップルが販売する、いわゆるアップルカーについて、話題のためか、意見を求められる機会が多い。筆者は当事者でないので、真偽は不明であるが、もし2024年~2025年に販売しようとすれば、少なくとも本年度中に相手先を決め、取り掛かる必要があるように思えてならない。

 そのため、もし筆者がアップル自動車事業の責任者だった場合、どのような条件を考えるのか、彼らの頭の中を想像してみた。

 まず、アップルはクルマに関して、調査・研究はしているものの、実際にクルマを開発・製造したことはない。このため、iPhoneのように、自社開発し、製造はEMS大手の鴻海精密工業(フォックスコン)などに製造委託するという訳にはいかない。

 つまり、候補となる自動車メーカーは製造委託というより、ある意味、共同開発のパートナーとして扱う必要があるのではないだろうか。その場合、ジョブシェアや責任範囲など、調整に相当時間を要すると推察される。

 では、候補自動車メーカーを考える時、どのような条件を設定するのであろうか。筆者は少なくとも下記3つの項目は必須と考える。

1.EVに関する量産経験を有すること
 これはとても大切である。アップルは初年度でも10万台、数年後にはテスラに匹敵する年間50万台以上を想定しているであろう。そのため、少量しか生産経験がない自動車メーカーでは、経験不足とみるのが妥当ではないだろうか。

2.自動運転で数多くの知見・経験を有すること
 アップルは当初は完全自動運転でないにしても、将来は自動運転を視野に入れていると思われる。その場合、アップルが元自動車エンジニアを集めて調査・研究していても、やはりクルマとしての挙動など、どうしても自動車メーカーとのタイアップが必要となる。そのため、自動運転に関する知見・経験があることを求めるのではないだろうか。これは自動車メーカーとの共同開発エリアになろう。

3.電池供給を自らの判断でコントロールできること
 実はこれが最も重要かもしれない。アップルはモノ作りは自ら手掛けないため、電池メーカーからの供給を受けるであろう。しかし、EV化が急激に進展するにつれ、世界的にどの電池メーカーも余裕がなくなってきている。

 つまり、優先的に電池を確保し、コスト的にも安価で抑えようとすれば、自動車メーカーにて電池ボリューム、価格をコントロール出来ることが望ましい。そう見渡すと、例えば、自動車メーカーでありながら、元々電池メーカーであったり、電池部門を社内カンパニーとして内包していたが、現在は外部に出して独立させているところもある。いずれも自ら電池生産ボリュームをコントロール可能とみるべきであろう。

 このように考えると、世界中で候補となる企業は限定されるのではないだろうか。ただし、これはアップルの思惑だけで決まるものではなく、候補企業の考え方にもより、これからどのような選択となっていくのか、楽しみである。

2021年1月18日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

日本型スマートシティの未来とは

 最近、スマートシティについてたびたび聞かれる。しかし、聞かれるたびに、特に日本型スマートシティは「なんだかなぁ・・・」と思ってしまうのである。

 世界中でスマートシティと呼ばれるプロジェクトは40以上と言われている。有名なところでは、中国の北京南西に位置する「雄安新区」であろう。また米国オハイオ州コロンバス市は全米のスマートシティコンテストに優勝し、一躍有名となった。

 コロンバス市は訪問したことがないが、雄安新区は以前に訪問したことがある。当時は展示場など数か所の建物だけであったが、最近のニュースによれば、雄安新区駅もほぼ完成し、駅のプラットホームは高鉄(日本の新幹線)路線が約20本もあるとか。上海虹橋駅並みの巨大な駅である。

 さて、筆者が思うスマートシティは、最初に都市計画と都市交通がセットで計画されるべきと思っている。雄安新区などは、都市計画のグランドデザインを描いた上で、空港、高鉄、高速道路、地下鉄など、最新の都市交通システムを載せている。

 とろこが、日本で進めるスマートシティは、土地の狭さもあるのかもしれないが、そのようなことはほとんど反映されていない。静岡で進める「Woven City」でも、あくまで実証試験都市という位置づけのためか、そこにたどり着く都市交通は配慮されず、域内で運行するモビリティ、IoT、MaaSなどが検討されているのみである。

 他のスマートシティ、例えば、東京港区竹芝地区で進めるスマートシティも、浜松町の駅が隣接するためか、IoT、ビッグデータ、ネットワークの拡張に主眼が置かれている。

 結局、日本で行っているものは、スマートシティというより、スマートタウン、町内という意味でのスマートブロック、もしくはスマートビルに留まっているように思えてならない。冒頭「なんだかなぁ」とつぶやいたのはその理由である。

 日本でも過去に大きな都市創造は行われた。例えば、長岡京から、平安京への遷都である。長岡京が設立10年で度々の水害にみまわれ、急遽、東側に平安京を遷都実施した。中国長安をモデルに設計され、条坊制(いわゆる碁盤目状)を本格的に施行したことは有名である。

 このように考えると、各地に複数のスマートシティ実証試験都市として創るよりも、東京付近ではなく、少し離れたところに、人口20~30万人程度が住める都市構想をぶち上げてはどうだろうか。

 地方は疲弊しており、活性化も含めて、実際に日本型スマートシティをリアルワールドとして創ることで、見えてくる課題や未来形もあるのでないだろうか。

2020年12月21日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

出し惜しみなのか、出せるネタがないのか

 昨日、第14回日中省エネルギー・環境総合フォーラムの「自動車の電動化・スマート化分科会」に出席した。

 日中省エネルギー・環境総合フォーラムは、省エネや環境問題に対して、日中が毎年相互に開催しており、昨年は東京開催だったので、今年は北京開催の番であった。新型コロナの影響もあり、主催者は中国側であるものの、初のオンライン開催となった。

 筆者も自動車メーカー在籍時は、北京開催の時に講演した経験がある。参加者は自動車の専門家であり、どのような発表を日中で行うのか、お互いに関心をもっている会合である。

 さて、今回の分科会は中国側5人、日本側5人が講演したが、筆者の印象では、日本側が何となく出し惜しみしているように感じた。

 中国側は、EV用電池で世界最大となった寧徳時代新能源科技(CATL)の創業者で、現在は副董事長を務める李平氏が、CATLが考える将来の電池の方向性などを説明したり、ZTEの子会社が、テスラモデル3の統合ECUに匹敵するAIチップを開発して、量産化したなど、多くの力作があったように思えた。

 一方、日本側はトヨタが新型ミライFCVの開発経緯について発表があったものの、全体として乏しいように思えた。会合が終わってから、これは出し惜しみなのか、それとも出せるネタがないのだろうかと思ってしまった。

 自動車や関連するIT、AI、エネルギー、都市交通など、中国側は急速に力をつけてきており、日本から学ぶものがないと思うと、この分科会も次第にすたれていってしまう。そんな危機感をもった会合であった。