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2023年6月26日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 GM、Fordによる急速充電規格変更に思う

今年6月上旬より、Fordおよび、GMがこれまで採用してきた急速充電規格であるコンバインド充電システム(以下CCS:Combined Charging System)から、テスラが採用する北米充電標準規格(以下NACS:North AmericanCharging Standard)に2024年より変更すると公表した。

最近は新興自動車メーカーのリビアン・オートモーティブまでもNACSに変更すると公表している。なぜ突然2つの巨大自動車メーカーが変更を申し出たのであろうか。両社ともその理由については明確にしていないが、推論として筆者の見解を述べてみたい。

過去を遡れば、急速充電規格が定まったのは約13年前である。日本発のCHAdeMO、中国のGB/Tに対抗する規格として、欧州主導にて米国がCCS1、欧州CCS2という規格が生まれた。急速充電プラグの中に普通充電口を内包したことから、CCS1とCCS2では形状が異なっている。

当時は、CCS規格に対して法規・規格部門を中心に立案されたが、今回の急激な方針変更は両社の営業、品質部門が起点ではないかと考える。

主な要因はおそらく2つと考える
1.CCS規格の信頼性に課題、さらにメンテナンスの弱さ
米国にてCCS1が設置されているものの、CCS規格の信頼性に課題があり、設置機器の故障率の多さにGM、Fordは危機を感じたのではないだろうか。以前よりCCS陣営に改善を申し入れていたものの、一向に改善されないことに嫌気を感じたと思われる。(米国ニュース報道によれば、カリフォルニア大学バークレー校の研究者がサンフランシスコのベイエリアにある675台のCCS急速充電器をチェックしたところ、ほぼ4分の1が機能していないことが判明したとある)

2.使い勝手でNACSに軍配
ユーザーエクスペリエンスの調査に於いても、NACSのほうが軽くて、小型化で、使い易いとの結果が出ていた。形状は見たら一目瞭然である。

今回の件で、北米はNACSが事実上の標準である「デファクトスタンダード」となるであろう。課題は欧州である。「少なくともCCSを設置」と欧州にて規定されているものの、米国にてCCS規格に対して不安が増したため、欧州でもCCSで本当に大丈夫なのかと議論が起こるであろう。

なお、中国では国家規格GB/Tとして制定されており、日本はCHAdeMO規格が95%以上もあることから、国・地域によっては既に固まっている場合、変更はない。しかし、日系自動車メーカーは各地でEVを販売することから、地域にあった充電規格に変更する必要が出てくる。

2023年5月22日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

ダイハツのポール側面衝突試験不正に思う

ダイハツが5月19日に発表した衝突安全に関する不正行為(ダイハツ・ロッキー、
トヨタ・ライズHEV車のポール側面衝突試験)に本当に驚かされた。

衝突試験は、地域・国によって多くの種別がある。前突試験、側突試験、ポール側突試験、後突頚部傷害保護試験、歩行者保護性能試験など多様である。

筆者もEV開発の前は内装設計を担当していたため、側突、特にポール側突試験は最も難しい衝突試験の一つであると認識していた。

国土交通省が定めるポール側突試験は、直径254mmの半球状の柱に、スピード32km/hにて、車体を75度に傾けて実施するものである。車両ダミー(MDB:移動台車)の側突試験に比べて、局所的に衝撃が加わることから、ボデー構造(サイドシル、ルーフ)、ドア内部の構造、サイドエアバッグ、天井のカーテンエアバッグなど、複雑な要素が絡み合う。

このため、設計段階からCAEを駆使して検討を行うとともに、試作車両などを用いた実車衝突試験では、社内基準(法規よりマージンを取った値)を満足することができるのか否か、設計・試験部門とも検討していく。

もし、今回説明のように、助手席の試験を実施し、運席の試験を省略して報告書を提出したのであれば、当時余程不都合なことが生じていたのではないかと推察してしまう。またこれは試験部門のみならず、設計部門、認証部門も知っていないと出来ないことであろう。

車両についていえば、助手席と運席はレイアウトが必ずしも同一でないこともあり、どちらかと言えば、ステアリングなどがある運席側が厳しい。

真因は判らないが、ダイハツは米国、欧州での販売からほぼ撤退しており、米国(NHTSA、IIHS)、欧州(Euro NCAP)など厳しい法規制に対して、実施する必要がなく、国内の衝突試験自体を軽んじていたようにも思えてならない。

今回の件は、単に部品不具合などのリコールと異なり、自動車会社の存続を揺るがすほど大きな案件となるのではないだろうか。事態の推移を見守りたい。

2023年4月17日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

欧州理事会のe-Fuel免責事項はガス抜きでは

欧州理事会は、2023年3月28日、2035年に内燃機関車の新車販売を禁止することで合意した。それに付随してe-Fuelも条件付きにて認めたことが話題となっている。

日本のメディアでは、2035年以降も、ガソリン車が販売継続可能となったとの報道も見られるが、筆者としては、これはかなりミスリードではないかと思える。

今回の発端は、欧州委員会、欧州議会、EU理事会の各官僚による長年の調整が終わり、政治的な承認となる欧州理事会(閣僚理事会)で終了する予定であったが、ドイツより2035年以降もe-Fuelを販売継続すべきであると、待ったがかかったことに端を発している。

この要請に対して、欧州理事会(閣僚理事会)は、免責事項として、2035年以降も
e-Fuelのみで走行する新車の販売を継続するための法的ルートを作ることを約束して決着をみた。

筆者から見るところ、議論の着地点は次の5つの要素から成り立っている。
・2035年に内燃機関の新車販売を禁止する法案に最終合意
・2035年以降もe-Fuelのみで走行する新車の販売を継続するための法的ルートを
作ることを約束
・e-Fuel車は、ガソリンやディーゼルを充填してもエンジンがかからないようにする
・e-Fuelでしか走れない車のための新しいEU車両カテゴリーを作る
・バイオ燃料は対象外とする

そして、今回の合意では、e-Fuelの定義として、再生可能なエネルギー源で生成した水素と、大気から直接回収した二酸化炭素(CO2)を混合することで作り出される合成燃料のみとしている。

ということは、通常、産業プロセス(工場)から回収した二酸化炭素(CO2)を混合することも考えられるが、今回は排除されている。

もともと、e-fuelなど合成燃料を使用した内燃機関車の是非は、2026年に再評価するとしていた。しかし、ドイツの横やりが入ったことから、欧州理事会(閣僚理事会)ではしぶしぶ認めたのであろう。

このため、e-Fuel使用に関しては、法的ルートを作ることを約束しているものの、実現には高いハードルを設け、そう簡単には認めないぞとの思いがあるのではないだろうか。

今後も議論が続くと予想されるが、e-Fuelは課題が多い。使用する水素の純度問題、大気から直接回収した二酸化炭素(CO2)の厳密さ、e-Fuelを製造する際に多くのエネルギーを用いることから生じるLCA問題など、問題山積である。

筆者は、e-Fuelの免責事項は、ドイツ提案に対して、形だけは認めるものの、いわゆるガス抜きでであり、実際はほとんど期待できないように思えてならない。

2023年3月20日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 「バッテリーパスポート」にて日本側対応に懸念

欧州にて実施しようとしている「バッテリーパスポート」に注目が集まっている。

ご存じない方のために補足すると、欧州を中心とする官民アライアンスである「グローバル・バッテリー・アライアンス(GBA)」が主催・推進しており、バッテリーに関する材料原産地、材料生産者、セル生産者、バッテリー重量、製造時の炭素排出量など、多くの指標をバッテリー毎に明記して、デジタルプラットホームとして管理しようとする動きである。

このアライアンスには、欧州自動車メーカーのみならず、テスラ、寧徳時代新能源科技(CATL)など現在120以上の企業・団体が加わっている。しかし、なぜか日系自動車メーカーや日系電池メーカーは加わっていない。

これまでも、欧州では私的なコンソーシアムや小規模のアライアンスから、次第に格上げし、法案の骨子が固まった頃には、修正しようとしても時既に遅しとなったことが多い。残念ながら、日系企業の場合、素案の段階では時期尚早として「待て」をしてしまうことがある。

近年、欧州発の規制は、あっという間に世界規格となることが多く、今回に関しても、事前の段階から参画していく姿勢が大切ではないだろうか。

GBA members:
https://www.globalbattery.org/about/members/

2023年2月27日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

トヨタが2026年に新プラットホームで新型BEVに落胆

最近、トヨタの次期社長である佐藤恒治氏は、事業改革構想を発表し、2026年に新プラットホームでレクサスの新型BEV(電気自動車)を商品化すると公表している。

しかし、今年はまだ始まったばかりである。3年以上先の世界では、テスラや中国企業であれば、今から企画しても、全くの新型BEVを2026年に発売可能であろう。たいへん申し訳ないが、これで世界で戦っていけるのであろうかと心配してしまう。

折しも、2022年に於ける「世界のBEV+PHEVブランド別販売台数TOP25」が公表されている。第1位は180万台以上を販売したBYD、第2位は130万台以上販売したテスラ、第3位は90万台のVW Groupと続く。しかし、日系企業では、第10位にルノー・日産・三菱連合、第23位にトヨタとなり、他の日系企業は圏外である。

筆者の勝手な予測かもしれないが、中国、米国、欧州の新序列は今後10年間も同様な形で推移するのではないかと思ってしまう。つまり、なかなか日系企業は上位に食い込めないであろう。

その最大の理由は、e-Mobility新時代に対して危機感が乏しいこと、スピードに対する希薄さ、コロナ終了で利益が回復していることへの安堵感ではないだろうか。

世界の主要な自動車業界が既に変わり始めており、まだ大丈夫と思っている日系企業はどうしても出遅れてしまっていると思えてならない。
https://www.ev-volumes.com/

2023年1月23日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

 ノルウェーのEV販売比率に驚愕!

2023年の年明けて、最も驚いたニュースの一つがノルウェーに関することである。

ノルウェー道路連盟によれば、2022年の同国の乗用車販売に占める電気自動車(BEV)の販売比率が79.3%に達したとのこと。これは2021年の64.5%を大幅に上回る記録的な数字である。あくまでBEVのみであり、PHEVは含まれていない。

ノルウェーはもともと、BEVには熱心であったが、それほど販売比率が高かった訳ではない。筆者がノルウェーを訪れた約10年前には約3%レベルであった。それから僅か10年あまりで驚異的な飛躍を遂げたことになる。

いろいろな分析があるが、カギは主に2つとされている。
一つは、政府が電動化への重要なインセンティブを導入したこと。BEV普及を後押しするため、通行料の無料化、駐車場、免税などのインセンティブを導入した。

もう一つは、充電インフラの充実である。国は大規模な充電ネットワークを展開し、南北1,700 キロメートルにわたって5600台を超える急速充電器を設置した。人口540万人に対して驚くべき数値である。人々の意識改革も加わったであろう。

ひるがえって、日本では2022年のBEV新車販売比率は1.7%に過ぎない。軽自動車EVも登場して健闘したが、まだまだである。しかし、日本でも、意識改革や有効な政策を打つことで、変革が起こる可能性もあるのではないだろうか。

2022年12月12日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

海外から熱視線!

12月5日スウェーデン大使館主催の「スウェーデン・日本サステナビリティサミット2022」にパネリストとして参加した。その時感じたことを述べてみたい。

この会合は、スウェーデン大使館が主催し、政府高官や産業界の関係者を招いて、エネルギー、モビリティ、サーキュラリティの3つの分野に焦点を当て、ディスカッションを行ったものである。

モビリティ分野では、なぜ日本がEV化に慎重で進まないのかと議論になった。2022年の新車販売では、欧州は電気自動車やプラグインハイブリッド車が約20%前後で推移している。しかし、日本では軽自動車のEVが発売され健闘しているものの、その販売比率は約4%前後に留まっている。

このため、海外からみれば、日本はEV化に遅れており、内燃機関車に固執していると思われているようだ。小職からは、10年前に世界に先駆けて三菱・日産から電気自動車を発売したが、その後、本格的に取り組まなかったことで、時流から乗り遅れてしまったこと。充電インフラに対しても、文化的な違いもあり、取り組みが遅れたことなどを説明した。

それに対し理解を示すものの、日本はなぜ勇気をもってチャレンジしないのかと疑問の声もあった。日本にいると、日本の論理だけで過ごしてしまいがちである。しかし、今回のように海外から改めて指摘を受け、熱視線を浴びることで、やはり自ら変革できるようにならなければと、ひしひし思ったものである。

2022年11月9日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

米国「インフレ抑制法」は生煮えだったのか

それにしても、バイデン大統領が2022年8月16日に署名したた「インフレ抑制法」は何だったんだろうと思ってしまう。

本来なら米国の法律であることから、海外からはとやかく言うことはあまりないが、今回は海外から言いたい放題のようだ。

欧州連合は、控除要件が「最終組み立ては北米で行われること」と規定されていることに対し、欧州から輸出する電気自動車や電池のほか、関連機器はカナダとメキシコの製品と同等に扱うよう要請を出した。これでは、米国の法律として意味をなさなくなる。

また、韓国政府は、インフレ抑制法は、外国のEVメーカーにマイナス影響を与え、韓米自由貿易協定(FTA)や世界貿易機関(WTO)などの国際通商ルールにも違反する恐れがあると強調した。その結果、韓国製EVにも同一の税額控除を適用したり、税額控除の施行に3年の猶予期間を設けることなどを要請している。

珍しく、日本も負けじと「1.北米地域以外からの輸入完成車が税控除の適用除外となったこと、2.バッテリー材料の調達・加工要件が米国または米国の FTA締結国に狭く限定されていること、3.バッテリー部品の北米での製造・組み立て要件が導入されたこと」に懸念を示し、日本メーカーのEVも優遇を受けられるよう意見書を提出している。

このように、ここまで海外からボコボコに叩かれる法案は珍しいのではないだろうか。やはり、突貫工事で作成した法案のため、NHTSAやCARBのように細部を詰めて出てきた法案とはとても思えない。

ある意味、選挙対策としての「インフレ抑制」法案だったのかもしれないが、逆にあまりにアメリカファーストを謳うことで、関係国との協力関係にひびが入らないか、気になるところである。

性急な法案は周辺国に混乱を招くという、良い例のように思えてならない。

2022年10月24日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

政府リスキリング認定対象分野があまりにも狭いのでは

岸田政権は先般、成長産業への労働移動を促す「リスキリング支援」に今後5年間で1兆円を投じる方針を表明した。

これは、日本で出遅れている産業に対し、新たな知識を身に付けることで、労働生産性を向上させ、既存の人材を再活用する方策であろう。

では、どのような分野が対象となるのであろうかと、政府HPを検索してみると、「経済産業政策局 産業人材課」が窓口となっており、その中に、「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」が設定されている。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/reskillprograms/index.html

それによれば、リスキリング認定対象分野は次の3つである。また注記※にあるように1および2項の基礎・初級のITレベルは除く条件となっている。

1.AI、IoT、データサイエンス、クラウド
(デザイン思考、アジャイル開発等の新たな開発手法との組み合わせを含む)
2.高度なセキュリティやネットワーク
3.IT利活用(自動車モデルベース開発、自動運転、生産システムデジタル設計)
※1、2について、基礎・初級のITスキルは除きます。

筆者の感覚では、これは「リスキリング講座」というより、「プロフェッショナル
育成講座」のように思えてしまう。

言うまでもなく、自動車産業は日本の製造業の重要な柱である。喫緊の課題は、ガソリン車・ディーゼル車の知見・経験が主流であった自動車産業従事者を、新エネルギー車(電気自動車、燃料電池車、プラグインハイブリッド車)および開発に必要となるソフトウエア技術者を育成することであろう。

海外では、大手部品メーカーのボッシュが、世界40万人の社員に対して、今後10年間で2800億円を投じて、内燃機関技術者から電気自動車、ソフトウェア技術者に生まれ変わる計画を立てている。

そう考えると、日本のリスキリング政策は、プロフェッショナル育成のみならず、もっと大きな投網が必要のように思えてならない。

2022年9月26日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

中国でなぜかPHEV販売急増、これは必然なのだろうか

中国にてPHEVの販売が急増しているとのこと。思わず、えっ、と思ってしまう。というのは中国では圧倒的にBEV販売が多く、PHEVを手掛ける自動車メーカーはBYDなど少なかったからである。

しかし、9月25日付け報道によれば、8月の新車販売は、PHEVが対前年比で2.6倍増の14万4千台、1~8月の累計は2.7倍増の82万台とか。

もちろん、BEV販売は依然として多く、8月が対前年比93%増の52万台、8月までの累計では、対前年比2倍の304万台とのこと。

既にPHEVはBEVに対する販売比率27%まで迫ってきている。なぜこれほどPHEVが伸びたのかという問いに対して、中国関係者は、「中国のPHEV技術が先行者と肩を並べるまでに向上したこと」「PHEVに関する特許出願件数が全世界の約4割を占め、日本、ドイツを上回ったこと」を理由として挙げている。

また別の要因として、リチウムイオン電池などの原材料価格が高騰し、その結果、BEV価格が高価となり、手を出しにくくなってきたことも遠因であるだろう。

PHEVは日本やドイツの専売特許と思ってきたが、ここにきて中国も参入し、「三つ巴」の様相となってきた。いよいよ戦国時代の始まりであろうか。