2025年8月25日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

2025年8月25日 和田憲一郎のビリビリ!とくる話

スーパーチャージャーとNACSは同じではない

スーパーチャージャーとNACSについて良く聞かれる。これについて筆者の考えを
述べてみたい。

スーパーチャージャーは、テスラが電気自動車(BEV)を市場導入する際に、2012年に導入した急速充電規格である。一方、FordやGMなどの自動車メーカーは、欧米にて取り決めたコンボ規格CCS1を導入していた。しかし、北米において採用したコンボ規格CCS1が、充電途中での停止や機器の故障など信頼性に欠けるという問題点が発覚していた。このため、より信頼性と利便性の高い新たな充電規格の導入を模索していた。

こうした状況の中、テスラは2022年11月、インフレ抑制法(IRA)の下で補助金の認可を得るためには、「複数ブランドのBEVが利用可能な急速充電設備」という条件を満足すべく、新たにNACS(North American Charging Standard)規格の導入を発表した。

このNACSは、スーパーチャージャー規格をベースに、アダプター追加により汎用性と他社BEVとの互換性を考慮して設計されたものである。その後、Fordを皮切りに、北米の主要な自動車メーカーが相次いでNACS規格の採用を表明し、同規格が事実上の業界標準となる動きを加速させた。

しかし、NACS規格の実装に際しては、業界団体より、従来のCCS1規格に対応した既存車両にも互換性を持たせるよう要望が寄せられた。これを受け、NACSにおける通信手段には、従来のCANバスに代えて、CCS1で採用されていた「ISO 15118」に準拠したHomePlug Green PHY(HPGP)の導入が検討された。このHPGPは、電力線通信(Power Line Communication:PLC)技術を基盤とするものであり、既存インフラとの高い互換性が期待された。

このため、SAE Internationalは技術的検討を重ねた上で、2024年9月30日にNACSという呼び名は同じであるものの、今回の変更を盛り込んだ内容を新たな北米充電システム:NACSとして正式に再定義し、その標準規格を「SAE J3400」として発表した。

このように規格策定の段階で混乱したことから、多くの自動車メーカーはNACS採用を表明するものの、実際に車両への実装は多くが2025年から、もしくはこれからである。このように、スーパーチャージャーと新たに設定されたNACSは同じものではない。

筆者の懸念点は2つである。
一つは、CCS1で発生した問題点の原因が総括されていないことである。これをそのままNACSに導入するのであれば、NACSはCCS1と同様に不安定な状態となる。多くの車両がこれから市場投入となるが、懸念は残る。

もう一つは、NACSについて、どのような機関が認証を付与するのかという制度設計も未整備の状態にある。テスラとスーパーチャジャーという1対1の関係から、NACSではN対Nの関係になる。例えば、CHAdeMO協議会は、当該団体自らが認証機関としての役割を担っているのに対し、テスラは第三者認証機関としての責務を担う意志を示していない。

これにより、NACSの推進・調整を担う統括機関が存在しないという「司令塔不在」の状況が生じている。つまり、NACSは「標準化はされたが、認証制度の整備が追いついていない移行期の規格」と位置づけることができるのではないだろうか

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